ラム肉の栄養と効果効能・調理法・保存法
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ラム肉の歴史や、主要な品種などの基本情報、マトンとの違い、ラム肉に含まれる栄養とその効果効能、栄養素を損なわない調理法や保存法などを紹介します。
ラム肉とは
ラム肉(lamb)とは、生後1年未満の羊の肉です。羊肉は、羊の年齢によって名前が変わり、同じ羊肉でも、マトンとは区別されます。
羊が家畜化されたのは、紀元前8千年以前と考えられています。一説には、豚や牛よりも家畜の歴史が長いという報告もあり、世界では古くから親しまれている食べ物です。
ラム肉を含む羊肉は、特にフランス料理や、トルコ料理でよく使われています。宗教上タブーとされる牛肉や豚肉とは異なり、羊肉を食べることを禁止する宗教はないことが、広い地域で食べられている理由かもしれません。
羊肉が日本で定着したのは、明治時代に入ってからです。明治時代以前にも、家畜として羊が持ち込まれた記録はありますが、羊の飼養が盛んになることはありませんでした。
平成30年度の国内生産量は153トンで、そのうちの8割が北海道で生産されています。対して、国外からの輸入量は約2万トンと多く、羊肉の国内自給率は1%未満を推移しています。国内生産量が少ない理由は、羊が日本の気候では育てにくいため、生産地が限られてしまうからです。
ラムとマトンの違い
ラムと同じ羊肉でも、生後2年以上の羊肉をマトンと呼びます。ラム肉の柔らかい肉質とは異なり、マトンは肉質がしっかりとした濃厚な味わいが特徴です。
日本では、「マトンは臭い」との声も聞きますが、その原因は、羊肉の脂身に含まれるカプリル酸などの脂質と考えられています。独特のにおいを持つ脂質成分は、冷凍した羊肉を解凍して鮮度が落ちると、においが強くなります。
マトンは臭いという評判が広まった理由は、冷凍技術が発達していなかった時代に、鮮度管理がうまくいかずに鮮度が落ちやすかったためです。羊肉料理の本場では、羊肉の独特の臭みは旨味として認識されています。
また、生後1年以上2年未満の羊肉は、ホゲットやイヤングなどの名称で呼ばれてますが、日本ではあまり流通していません。
ラム肉の品種
羊の品種は、食用と毛用を合わせると、世界に1,000種類以上存在すると言われています。各国の気温や湿度など、環境に合わせた品種に改良され、飼養されています。
主に日本国内に流通する羊肉の品種は、サフォーク種・ロムニー種・テクセル種です。
日本で最も多く生産されているのがサフォーク種で、脂身が少なく赤身の多い肉質を持ちます。
ロムニー種は、ニュージーランドで多く生産されている羊で、日本の湿度にも適応できることから、国内でも飼育されるようになりました。
テクセル種は、オランダ原産の食用羊で、脂身が少ない品種です。
ラム肉の部位別の特徴
羊は、「捨てる場所がない家畜」と呼ばれるほど、その肉はどこを食べても美味しいと言われます。ラム肉の部位は、料理によって使い分けられているため、料理に合わせた部位を用意するとよいでしょう。
ラム肉の各部位の特徴は、次のとおりです。
ショルダー(肩) | ラム肉の肩の部分で、脂身が適度に付いていることが特徴。焼肉や炒め物に。 |
ラック(背中) | あばら骨の部分で、脂が乗っていることが特徴。ラムチョップやステーキに。 |
レッグ(もも) | 脂身が少なく、柔らかいのが特徴。臭みも少ない。煮込み料理や焼肉に。 |
ロイン(腰) | 脂身が少なく柔らかいのが特徴で、希少性が高いヒレ部位。ステーキに適している。 |
フランク(腹) | バラ肉のことで、脂身が多く、煮込み料理に向く部位。 |
シャンク(すね) | 日本ではあまり食べないが、海外では煮込み料理によく使われる部位。 |
ラム肉に含まれる成分・栄養素
ラム肉100gに含まれる成分・栄養素は下記表の通りです。
肉類は脂質を多く含むため、カロリーが気になるかもしれません。ラム肉のカロリーは、牛肉の約半分で、ヘルシーな点が特徴です。タンパク質も多く含むため、低カロリー高タンパク質な食べ物として、ダイエットや筋トレ中の人におすすめできます。
ラム肉には、不飽和脂肪酸が多く含まれています。不飽和脂肪酸は、脂質の1種で、悪玉コレステロールを下げ、動脈硬化や血栓を予防する働きを持つ栄養素です。
またラム肉は、各種のビタミンやミネラルも豊富に含みます。特に、鉄とビタミンB12など、健康を維持するために欠かせない栄養素が、多く含まれていることが特徴です。
食 品 名 | 単位 | ラム肉 肩 脂身つき 生 | ラム肉 ロース 脂身つき 生 | ラム肉 ロース 脂身つき 焼き | ラム肉 ロース 皮下脂肪なし 生 | ラム肉 もも 脂身つき 生 | ラム肉 もも 脂身つき 焼き | |
廃 棄 率 | % | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | |
エネルギー | kJ | 857 | 1189 | 1488 | 539 | 684 | 1111 | |
kcal | 206 | 287 | 358 | 128 | 164 | 267 | ||
水 分 | g | 64.8 | 56.5 | 43.5 | 72.3 | 69.7 | 53.5 | |
たんぱく質 | アミノ酸組成によるたんぱく質 | g | - | 13.6 | 19 | 18 | 17.6 | 25 |
たんぱく質 | g | 17.1 | 15.6 | 21.8 | 22.3 | 20 | 28.6 | |
脂質 | 脂肪酸のトリアシルグリセロール当量 | g | 15.3 | 23.2 | 27.2 | 4.3 | 10.3 | 18.4 |
コレステロール | mg | 80 | 66 | 88 | 67 | 64 | 99 | |
脂質 | g | 17.1 | 25.9 | 31.4 | 5.2 | 12 | 20.3 | |
炭水化物 | 利用可能炭水化物(単糖当量) | g | -0.1 | -0.2 | -0.2 | 0 | -0.3 | -0.3 |
g | * | * | * | |||||
利用可能炭水化物(質量計) | g | -0.1 | -0.2 | -0.1 | 0 | -0.3 | -0.2 | |
差引き法による利用可能炭水化物 | g | 1.9 | 5.9 | 9.4 | 3.7 | 1.4 | 2.1 | |
* | * | * | ||||||
食物繊維総量 | g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | |
糖アルコール | g | - | - | - | - | - | - | |
炭水化物 | g | 0.1 | 0.2 | 0.2 | 0 | 0.3 | 0.3 | |
有機酸 | g | - | - | - | 0.7 | - | - | |
灰分 | g | 0.9 | 0.8 | 1 | 1 | 1 | 1 | |
無機質 | ナトリウム | mg | 70 | 72 | 80 | 77 | 59 | 64 |
カリウム | mg | 310 | 250 | 290 | 330 | 340 | 370 | |
カルシウム | mg | 4 | 10 | 11 | 7 | 3 | 4 | |
マグネシウム | mg | 23 | 17 | 21 | 23 | 22 | 24 | |
リン | mg | 120 | 140 | 160 | 190 | 200 | 220 | |
鉄 | mg | 2.2 | 1.2 | 1.7 | 1.9 | 2 | 2.5 | |
亜鉛 | mg | 5 | 2.6 | 3.3 | 2.7 | 3.1 | 4.5 | |
銅 | mg | 0.13 | 0.08 | 0.11 | 0.12 | 0.1 | 0.15 | |
マンガン | mg | - | 0.01 | 0 | 0.01 | 0.01 | 0 | |
ヨウ素 | μg | - | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | |
セレン | μg | - | 8 | 5 | 11 | 9 | 13 | |
クロム | μg | - | 1 | 1 | 0 | Tr | 1 | |
モリブデン | μg | - | Tr | 1 | Tr | 1 | 1 | |
ビ タ ミ ン | レチノール(ビタミンA) | μg | 8 | 30 | 37 | 7 | 9 | 14 |
α|カロテン | μg | - | 0 | 0 | - | 0 | 0 | |
β|カロテン | μg | - | 0 | Tr | - | 0 | 0 | |
β|クリプトキサンチン | μg | - | 0 | 0 | - | 0 | 0 | |
β|カロテン当量 | μg | 0 | 0 | Tr | - | 0 | 0 | |
レチノール活性当量 | μg | 8 | 30 | 37 | 7 | 9 | 14 | |
ビタミンD | μg | 0.9 | 0 | 0 | 0 | 0.1 | 0 | |
α-トコフェロール | mg | 0.5 | 0.6 | 0.6 | 0.1 | 0.4 | 0.5 | |
β-トコフェロール | mg | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | |
γ-トコフェロール | mg | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0.1 | |
δ-トコフェロール | mg | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | |
ビタミンK | μg | 23 | 22 | 29 | 11 | 15 | 23 | |
ビタミンB1 | mg | 0.13 | 0.12 | 0.13 | 0.15 | 0.18 | 0.19 | |
ビタミンB2 | mg | 0.26 | 0.16 | 0.21 | 0.25 | 0.27 | 0.32 | |
ナイアシン | mg | 4.2 | 4.2 | 5.4 | 8.1 | 6.9 | 7.4 | |
ナイアシン当量 | mg | 7.5 | 7.3 | 9.8 | 13 | 11 | 14 | |
ビタミンB6 | mg | 0.12 | 0.23 | 0.27 | 0.36 | 0.29 | 0.29 | |
ビタミンB12 | μg | 2 | 1.4 | 2.1 | 1.6 | 1.8 | 2.1 | |
葉 酸 | μg | 2 | 1 | 1 | 1 | 1 | 4 | |
パントテン酸 | mg | 0.94 | 0.64 | 0.69 | 0.77 | 0.8 | 0.84 | |
ビ オ チ ン | μg | - | 2 | 2.7 | 1.8 | 2 | 2.5 | |
ビタミンC | mg | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | Tr | |
アルコール | g | - | - | - | - | - | - | |
食塩相当量 | g | 0.2 | 0.2 | 0.2 | 0.2 | 0.2 | 0.2 |
レチノール当量(μg)=レチノール(μg)+1/12β-カロテン当量(μg)
Tr(trace) :微量含まれているが、成分の記載限度に達していないもの。
(0):測定されていないが、文献等により含まれていないと推定されるもの。
-:未測定
出典:日本食品標準成分表2020年版(八訂)
ラム肉の効果・効能
ラム肉に含まれる栄養素が持つ効果・効能・働きを解説します。
必須アミノ酸含有で身体を健康に維持
ラム肉は、人間の身体に必要な必須アミノ酸を、バランスよく含む食べ物です。
タンパク質は、20種類のアミノ酸で構成され、体内で合成できない9種類のアミノ酸を、必須アミノ酸と呼びます。必須アミノ酸は、身体の維持に必要不可欠で、食事から摂取しなくてはいけない栄養素です。
ラム肉に多く含まれるメチオニンは、悪玉コレステロールを下げる効果があります。さらにメチオニンには、アレルギーを引き起こすヒスタミンを減らす効果も報告されています。
また、リジンもラム肉に豊富に含まれる必須アミノ酸です。メチオニンと同様に、リジンも主食となる精米には、あまり含まれません。リジンには、肝機能の強化や、免疫力を上げる効果があります。
タンパク質の効果・1日の摂取目安量・多く含む食品|NANIWA SUPLI MEDIA
L-カルニチンで脂肪を燃焼
L-カルニチンとは、リジンとメチオニンから合成される栄養素です。
L-カルニチンは、脂質をエネルギーに変える働きに関与しています。L-カルニチンが豊富な食べ物を食べることで、脂肪が燃焼されやすくなることから、ダイエットや筋トレの効果が期待されています。
鉄とビタミンB12が貧血を予防
ラム肉には鉄とビタミンB12が豊富に含まれており、貧血予防に効果的であると考えられます。
鉄は、ヘモグロビンの合成に必要な栄養素です。ヘモグロビンは、血液成分の1つである赤血球に含まれ、酸素を全身に運ぶ働きをしており、材料となる鉄が不足すると、貧血が起こります。鉄不足による貧血を、鉄欠乏性貧血と呼び、特に月経のある女性に多くみられる症状です。
ビタミンB12も血液成分の産生に関与します。ビタミンB12は、細胞のDNAを生成するときに必要な栄養素で、欠乏すると巨赤芽球性貧血を起こします。巨赤芽球性貧血とは、疲れやすくなったり、息切れしやすくなったりといった症状を引き起こす貧血の1つです。
鉄の効果・1日の摂取目安量・多く含む食品・効率よく摂取する方法|NANIWA SUPLI MEDIA
ビタミンB12の効果・1日の摂取目安量・多く含む食品・効率のよい摂取方法|NANIWA SUPLI MEDIA
ラム肉の食べ方
ラム肉の部位別の調理法や、独特な臭みを消す食べ方などを解説します。
ラム肉の臭み消しには香辛料がおすすめ
ラム肉は、マトンと比べてにおいは少ないですが、それでも独特の臭みが苦手と感じる人も少なくありません。ラム肉の臭みを減らしたいときは、香辛料を加えて調理することがポイントです。
ラム肉料理をよく食べるヨーロッパや中東地域では、羊料理には香辛料を使います。ラム肉は、ローズマリー・オレガノ・タイムなどの清涼感のあるスパイスで臭みを消せます。ラム肉を使った煮込み料理には、エスニックな香りが特徴のクミンがおすすめです。
オレガノの栄養と効果効能・調理法・保存法|NANIWA SUPLI MEDIA
タイムの栄養と効果効能・調理法・保存法|NANIWA SUPLI MEDIA
脂身を切り落とすことでも臭み消しになる
香辛料を加えるだけでなく、脂身を取ることでも臭みを減らせます。ラム肉の臭みは、羊肉に含まれれる脂肪酸が原因です。においの原因となる余分な脂身を、調理前に切り落とすことで、臭みの少ない料理になります。
脂身を切り落とす以外に、オーブンで調理することでも、ラム肉の臭み消し効果を期待できます。オーブンや魚焼きグリルは、脂が下に落ちる仕組みになっており、フライパンで調理するときよりも、臭みの出る脂を減らせるからです。
ステーキやラムチョップなどを作るときは、香辛料と一緒に、オーブンや魚焼きグリルで調理すると臭みが消えて、食べやすくなるでしょう。
タレに漬け込むことでラム肉は食べやすくなる
ラム肉の臭みが苦手という人は、にんにくを効かせたタレに漬け込んで調理すると、より食べやすくなります。にんにくに含まれるアリシンという成分が、強いにおいを発してラム肉の臭みを打ち消してくれます。
ジンギスカンや炒め物では、にんにくをたっぷり入れたタレで焼くとよいでしょう。
にんにくの栄養と効果効能・調理法・保存法|NANIWA SUPLI MEDIA
ラム肉の保存方法
ラム肉の栄養素を損なわない保存方法を解説します。
ラム肉の熟成方法
生のラム肉は、脂が透明~白いものほど鮮度が高いと言われています。脂身が黄色くなっているものは、熟成が進んでいると考えられます。3~5℃に保存して熟成させるとより美味しいと言われていますが、臭みも強くなるので、ラム肉の独特のにおいが苦手な人は新鮮なうちに食べるとよいでしょう。
ラム肉の熟成にかかる時間は、10~15日と考えられています。熟成させるときの温度が高いと腐りやすくなるので注意しましょう。
生のラム肉の保存方法
生のラム肉を購入したら、冷蔵環境で保存します。調理するまで数日程度なら冷蔵保存できます。ラップやアルミホイルに、軽く包んで保存しましょう。
ラム肉の冷凍方法
ラム肉を冷凍するときは、袋に入れたりラップで包んだりして、適度に空気を抜いて、冷凍庫で保存します。冷凍保存したラム肉は、1ヵ月程度なら栄養素を損なわずに保存できます。
ただし、一度解凍してしまうと、痛みが早くなりますので、調理直前に解凍しましょう。