小麦の栄養と効果効能・調理法・保存法
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小麦の主要な品種などの基本情報、小麦に含まれる栄養とその効果効能、栄養素を損なわない調理法や保存法などを紹介します。
小麦とは
小麦(wheat)は、小麦粉の原料となるイネ科の穀物です。
小麦にはグルテンが含まれているため、ふっくらと焼き上げるパンやケーキのスポンジに適している一方で、吸水性が良くないため白米に混ぜて食べるのには向きません。
小麦の食物繊維は主に不溶性で、精白した部分(小麦粉)にはあまり含まれず、外皮や胚芽などの表皮の部分(小麦ふすま、小麦ブランとも)に多く含まれています。
ちなみに小麦と大麦の名前の由来は、実の大きさではなく成長過程における見た目から。大麦は小麦よりも大柄に見えることから、大麦と呼び名が付いたと言われています。
小麦の品種・種類
主な小麦の品種について紹介します。
マカロニコムギ(デュラムコムギ)
マカロニコムギは、スパゲッティなどのパスタに使われる小麦で、パンに使われる普通小麦の祖先にあたる小麦です。タンパク質を多く含むため、加工すると弾力性があり食感の強いパスタになります。
パンコムギ
パンコムギとは、約8000年前にマカロニコムギがタルホコムギという野生小麦の花粉と交雑したことで誕生した小麦です。
パンコムギはパン作りに欠かせない良質なタンパク質を持っており、パンに最も適した小麦とされています。
スペルト小麦
スペルト小麦は地球上で最も古い栽培穀物とされている小麦です。人工的な品種改良がほとんどされておらず、環境に強くて農薬が多く使われないため、特に健康志向の高い人に注目されています。
消化されやすい、他の小麦に比べて栄養価が高いなどの特徴があります。
小麦粉の種類と用途
家庭用の小麦粉には、強力粉、中力粉、薄力粉の3種類があります。この3つの分類は、小麦粉に含まれるタンパク質(グルテン)の量と質によって決まります。それぞれ適している料理が異なるため、用途に合わせて上手に使い分けましょう。
薄力粉
薄力粉は、タンパク質の量が3つの分類の中で最も少なく、タンパク質の性質が最も弱い小麦粉です。
薄力粉の主な原料として軟質小麦が使われます。粒度が細かく、水でこねると適度なふっくら感がでます。ケーキ・天ぷら・お好み焼きなどのふっくら・サクサクさせたい料理に適しています。
強力粉
強力粉はタンパク質の量が最も多く、タンパク質の質も強い小麦粉です。
粒度は荒く、主に硬質小麦が原料として使われいます。水でこねると粘りや弾力が出るという特徴があり、パン・餃子の皮・中華まん・中華麺・ピッツァなどに向いています。
中力粉
中力粉はタンパク質の量が薄力粉に比べて多く、タンパク質の質も薄力粉に比べて強いのが特徴です。
主な原料として中間質小麦や軟質小麦が使われ、うどん(ゆで麺や乾麺)に向いています。
小麦に含まれる成分・栄養素
小麦100gに含まれる成分・栄養素は下記表の通りです。
食品名 | 単位 | 国産小麦 | 1等薄力粉 | 1等中力粉 | 1等強力粉 | 全粒粉強力粉 | 食パン | ライ麦パン |
廃 棄 率 | % | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
エネルギー(kcal) | kcal/100 g | 337 | 367 | 367 | 365 | 328 | 264 | 264 |
エネルギー(kJ) | kJ/100 g | 1410 | 1535 | 1537 | 1528 | 1372 | 1105 | 1105 |
水 分 | g/100 g | 12.5 | 14 | 14 | 14.5 | 14.5 | 38 | 35 |
タンパク質 | g/100 g | 10.6 | 8.3 | 9 | 11.8 | 12.8 | 9.3 | 8.4 |
アミノ酸組成によるタンパク質 | g/100 g | - | 7.6 | 8.1 | 10.7 | -11.7 | 7.5 | 6.6 |
脂 質 | g/100 g | 3.1 | 1.5 | 1.6 | 1.5 | 2.9 | 4.4 | 2.2 |
トリアシルグリセロール当量 | g/100 g | 2.6 | 1.3 | 1.4 | 1.3 | -2.4 | -4.1 | -2 |
飽和脂肪酸 | g/100 g | 0.56 | 0.34 | 0.36 | 0.35 | -0.53 | -1.9 | -0.9 |
一価不飽和脂肪酸 | g/100 g | 0.35 | 0.13 | 0.14 | 0.14 | -0.33 | -1.15 | -0.57 |
多価不飽和脂肪酸 | g/100 g | 1.53 | 0.75 | 0.8 | 0.77 | -1.44 | -0.87 | -0.44 |
コレステロール | mg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
炭水化物 | g/100 g | 72.2 | 75.8 | 75.1 | 71.7 | 68.2 | 46.7 | 52.7 |
利用可能炭水化物(単糖当量) | g/100 g | - | 80.3 | 76.4 | 73.5 | -61.2 | 49.1 | - |
水溶性食物繊維 | g/100 g | 0.7 | 1.2 | 1.2 | 1.2 | 1.5 | 0.4 | 2 |
不溶性食物繊維 | g/100 g | 10.1 | 1.3 | 1.6 | 1.5 | 9.7 | 1.9 | 3.6 |
食物繊維総量 | g/100 g | 10.8 | 2.5 | 2.8 | 2.7 | 11.2 | 2.3 | 5.6 |
灰 分 | g/100 g | 1.6 | 0.4 | 0.4 | 0.4 | 1.6 | 1.6 | 1.7 |
ナトリウム | mg/100 g | 2 | Tr | 1 | Tr | 2 | 500 | 470 |
カリウム | mg/100 g | 470 | 110 | 100 | 89 | 330 | 97 | 190 |
カルシウム | mg/100 g | 26 | 20 | 17 | 17 | 26 | 29 | 16 |
マグネシウム | mg/100 g | 80 | 12 | 18 | 23 | 140 | 20 | 40 |
リン | mg/100 g | 350 | 60 | 64 | 64 | 310 | 83 | 130 |
鉄 | mg/100 g | 3.2 | 0.5 | 0.5 | 0.9 | 3.1 | 0.6 | 1.4 |
亜鉛 | mg/100 g | 2.6 | 0.3 | 0.5 | 0.8 | 3 | 0.8 | 1.3 |
銅 | mg/100 g | 0.35 | 0.08 | 0.11 | 0.15 | 0.42 | 0.11 | 0.18 |
マンガン | mg/100 g | 3.9 | 0.43 | 0.43 | 0.32 | 4.02 | 0.24 | 0.87 |
ヨウ素 | µg/100 g | - | Tr | 0 | 0 | 0 | 1 | - |
セレン | µg/100 g | - | 4 | 7 | 39 | 47 | 24 | - |
クロム | µg/100 g | - | 2 | Tr | 1 | 3 | 1 | - |
モリブデン | µg/100 g | - | 12 | 9 | 26 | 44 | 18 | - |
レチノール | µg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
α-カロテン | µg/100 g | - | - | - | - | - | 0 | 0 |
β-カロテン | µg/100 g | - | - | - | - | - | 2 | 0 |
β-クリプトキサンチン | µg/100 g | - | - | - | - | - | 0 | 0 |
β-カロテン当量 | µg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 |
レチノール活性当量 | µg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | Tr | 0 |
ビタミンD | µg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | Tr |
α-トコフェロール | mg/100 g | 1.2 | 0.3 | 0.3 | 0.3 | 1 | 0.5 | 0.3 |
β-トコフェロール | mg/100 g | 0.6 | 0.2 | 0.2 | 0.2 | 0.5 | 0.1 | 0.1 |
γ-トコフェロール | mg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0.7 | 0.2 |
δ-トコフェロール | mg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | Tr | 0.1 |
ビタミンK | µg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
ビタミンB1 | mg/100 g | 0.41 | 0.11 | 0.1 | 0.09 | 0.34 | 0.07 | 0.16 |
ビタミンB2 | mg/100 g | 0.09 | 0.03 | 0.03 | 0.04 | 0.09 | 0.04 | 0.06 |
ナイアシン | mg/100 g | 6.3 | 0.6 | 0.6 | 0.8 | 5.7 | 1.2 | 1.3 |
ビタミンB6 | mg/100 g | 0.35 | 0.03 | 0.05 | 0.06 | 0.33 | 0.03 | 0.09 |
ビタミンB12 | µg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | (Tr) | 0 |
葉酸 | µg/100 g | 38 | 9 | 8 | 16 | 48 | 32 | 34 |
パントテン酸 | mg/100 g | 1.03 | 0.53 | 0.47 | 0.77 | 1.27 | 0.47 | 0.46 |
ビオチン | µg/100 g | - | 1.2 | 1.5 | 1.7 | 10.8 | 2.4 | - |
ビタミンC | mg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
食塩相当量 | g/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1.3 | 1.2 |
アルコール | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
硝酸イオン | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
テオブロミン | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
カフェイン | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
タンニン | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
ポリフェノール | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
酢酸 | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
調理油 | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
有機酸 | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
重量変化率 | % | - | - | - | - | - | - | - |
レチノール当量(μg)=レチノール(μg)+1/12β-カロテン当量(μg)
Tr(trace) :微量含まれているが、成分の記載限度に達していないもの。
(0):測定されていないが、文献等により含まれていないと推定されるもの。
-:未測定
出典:日本食品標準成分表2015年版(七訂)
小麦の効果・効能
小麦に含まれる栄養素が持つ効果・効能・働きを解説します。
糖質(でんぷん)
小麦の胚乳は糖質(でんぷん)とタンパク質でできており、小麦の約80%を占めています。
糖質は人間が身体を動かす上で主要なエネルギー源となる栄養素です。小麦に含まれる糖質は多糖類で、消化器官で分解されて全身に使われます。
タンパク質は三大栄養素の1つで、人間の筋肉や臓器を作ったり、糖質と同様に活動のエネルギー源になったりする栄養素です。
炭水化物の効果・1日の摂取目安量・多く含む食品|NANIWA SUPLI MEDIA
不溶性食物繊維
小麦の表皮(小麦ブラン)には、不溶性食物繊維が多く含まれています。
不溶性食物繊維とは水に溶けにくい性質を持ち、水分を吸収して膨らみ、便のカサを増やすことで腸を刺激します。その結果、腸のぜん動運動を促して便秘の予防・解消に効果を発揮します。
食物繊維の効果・1日の摂取目安量・多く含む食品・効率のよい摂取方法|NANIWA SUPLI MEDIA
鉄
表皮は鉄も多く含んでいます。鉄は人体に必須のミネラルのひとつで、血液中のヘモグロビンの一部となって全身に酸素を運ぶという働きがあります。この働きにより、エネルギー代謝やDNAの合成と修復、異物の代謝などを促す効果があります。
また、鉄は赤血球の材料となるため、鉄不足による動悸、めまい、頭痛、持久力の低下、疲労感を予防することができます。
鉄の効果・1日の摂取目安量・多く含む食品・効率よく摂取する方法|NANIWA SUPLI MEDIA
ビタミンB1
小麦の胚芽には、ビタミンB1が多く含まれています。ビタミンB1は、ブドウ糖をエネルギーに変換する際に必要な栄養であり、「疲労回復のビタミン」と呼ばれています。
糖質をエネルギーに変換することで、疲労回復を助けたり、神経や脳を正常に保ったりすることができます。
ビタミンB1の効果・1日の摂取目安量・多く含む食品・おすすめレシピ|NANIWA SUPLI MEDIA
ビタミンB6
胚芽にはビタミンB6も豊富に含まれています。ビタミンB6の主な働きは、酵素の働きを助ける補酵素としてタンパク質や脂質の代謝をサポートしたり、神経伝達物質の合成をするこです。
そのため、ビタミンB6を十分に摂取することで、丈夫で健康な皮膚・粘膜・髪・歯・爪などを生成する、セロトニンなどの神経伝達物質を合成して精神を安定させる、といった効果が期待できます。
ビタミンB6の効果・1日の摂取目安量・多く含む食品・効率よく摂取する方法|NANIWA SUPLI MEDIA
ナイアシン
胚芽に含まれるナイアシンはビタミンB群の仲間であり、ビタミンB6やほかのビタミンB群と同様に酵素の働きをサポートします。
ナイアシンの効果として、糖質・脂質・タンパク質からエネルギーを作り出す、皮膚・粘膜の炎症を防ぐ、アルコールを分解して二日酔いを防ぐ、血行を促進して冷や頭痛などを改善する、などが挙げられます。
ナイアシンの効果・1日の摂取目安量・多く含む食品・摂取する方法|NANIWA SUPLI MEDIA
小麦の調理方法
小麦の調理方法を解説します。
小麦のおすすめ調理方法
小麦は、主成分が糖質(でんぷん)とタンパク質の「胚乳」、食物繊維や鉄を豊富に含んだ「表皮(小麦ブラン/ふすま)」、ビタミンB群やミネラルを含んだ「胚芽」から構成されています。
薄力粉などの小麦製粉は胚乳だけを用いるのに対して、全粒粉は胚乳・表皮・胚芽をつけたままの小麦を加工して作られるため、薄力粉に比べて約3倍の栄養を含んでいます。
また、糖質も少ないため、小麦の栄養を余すことなく摂取したり、低糖質を求めたりするなら、全粒粉を選ぶのが良いでしょう。全粒粉はパンやパスタなどに使うことができます。
小麦を食べる際の注意点
小麦粉を食べる際は小麦アレルギーに注意が必要です。
小麦アレルギーになると、小麦が含まれる食品を口にした際、湿疹やかゆみなどの症状があらわれます。ひどい場合だとアナフィラキーショックというショック状態に陥る場合もあるので、症状に心当たりがある人は医療機関の受診をおすすめします。
小麦の保存方法
小麦の保存方法を解説します。
常温保存
小麦粉は常温での保存が可能です。直射日光や高温多湿を避けた場所に置いておきましょう。
未開封状態では、強力粉は製造後6ヶ月、薄力粉・中力粉は1年保存することができます。開封後はできる限り早く使い切るようにしてください。
小麦を保存する際の注意点
小麦粉は湿気に弱いため、床下など湿気がこもりやすい場所に保存すると劣化してしまいます。
また、小麦粉を保存する際に特に注意しなければならないのがダニの発生です。袋の口を輪ゴムで留めただけの状態や、保存袋に入れただけではダニの発生を防ぐことはできません。ふた付きの密閉容器に移し替えて保存するようにしましょう。
冷蔵保存は、ドアの開閉時に常温と冷蔵庫の温度差によって結露ができ、粉の固まりやカビが発生する可能性があります。また、冷凍庫はダニの発生が防げる環境ですが、取り出す際に結露が発生しやすいため、冷凍保存も避けましょう。