高齢者が食べやすい食べ物と食事方法
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加齢による身体機能の低下について解説したうえで、高齢者が食べやすい食べ物・注意したい食べ物や飲み物を紹介します。
加齢による身体機能の低下
ヒトは、加齢によって身体機能が低下します。ここでは、加齢によって飲み込む力や味を感じる力、噛む力が低下して起こる障害について解説します。
嚥下機能(飲み込む力)の低下
嚥下(えんげ)機能とは、食べ物を飲み込む力です。加齢によって筋力や神経が衰えると、飲み込む力が弱くなったり、むせやすくなったりします。
喉には、食べ物が通る食道と、酸素を取り込む気管の2つの道があり、食べ物を食べるときは気管への道が塞がるようになっています。加齢によって気管を塞ぐ神経や筋肉が衰えると、むせやすくなります。
食べ物や飲み物が大量に気管に入ると、肺炎を引き起こす原因となります。
感覚機能(味・温度を感じる力)の低下
食べ物の味を感じとるのは、舌の表面にある味蕾(みらい)と呼ばれる感覚器です。
味覚は個人差がありますが、中年以降は少しずつ味蕾の数が減少すると考えられています。そのため、高齢になると味が薄く感じられ、醤油や塩などの調味料を多く使ってしまう傾向にあります。
また、温度や痛みを感じる皮膚の感覚も、加齢とともに麻痺する傾向にあります。特に65歳を超えると、温度感覚機能が低下します。暑さを感じにくく、知らないうちに重篤な熱中症を起こす原因です。
咀嚼機能(嚙む力)の低下
高齢者は、咀嚼(そしゃく)機能も低下します。
歯が悪くなっていたり、あごの筋力が落ちていたりすることで、食べ物を上手く噛めずに、そのまま飲み込んでしまいます。食べ物の丸呑みは、窒息や肺炎を引き起こすリスクが高くなるため、高齢者の食事では注意すべきポイントです。
高齢者の食事で注意するポイント
以上の通り、高齢者は、飲み込む力・噛む力・味を感じる力が低下している状態です。加齢によって起こる身体機能の変化を理解したうえで、高齢者の食事を考えましょう。
やわらかく食べやすい食材を選ぶ
噛む力が落ちている高齢者は、硬い食べ物を丸呑みにして、肺炎や窒息を起こす危険があります。そのため、噛みやすい食材を選び、野菜はやわらかくなるまで火を通しましょう。
また、丸呑みしないように、食材を一口大の食べやすい大きさに切ることもポイントです。小さく切ることで、丸呑みしてしまったときの窒息リスクを予防できます。
むせやすい場合はとろみのある食べ物で誤嚥予防
高齢者は飲み込む力が落ちているため、食べ物や飲み物でむせやすく、肺炎などのリスクが高まります。食べ物や飲み物が気管に入ってしまうことを誤嚥(ごえん)と呼び、誤嚥による肺炎は誤嚥性肺炎と呼びます。
嚥下機能の低下による誤嚥を予防するためには、飲み物や食べ物にある程度の粘性があるとよいでしょう。とろみをつけることで、誤って気管に入ってしまうリスクを減らせます。
濃い味付けを好むようになったら減塩調味料を使う
味覚を感じにくくなっている高齢者の場合は、醤油や塩などの調味料を、以前よりも多く使用してしまうことがあります。塩分の摂りすぎは、高血圧や動脈硬化、腎疾患などを引き起こすリスクを高めるため注意が必要です。
しかし味を薄いと感じると、食事そのものを楽しめなくなってしまう可能性があります。その場合は、減塩調味料を使って、味をなるべく変えずに食塩の摂取量を減らすことも1つの方法です。
栄養不足・カロリー不足に注意
「歯が悪いからやわらかい食材しか食べられない」などという理由で、食材が制限されてしまうと、栄養バランスが崩れたり、必要なカロリーが不足したり、また、食事を楽しめなくなったりする可能性があります。
例えば、ほとんど外出をしない75歳以上の男性では、1日1,800kcalのエネルギー量が必要です。自立している男性では、1日2,100kcal。カロリーが多いものを摂取すればよいわけではなく、必要な栄養素を含むバランスのとれた食事を心がけましょう。
男性 | 女性 | |||||
Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | |
65~74歳 | 2,050 | 2,400 | 2,750 | 1,550 | 1,850 | 2,100 |
75歳以上 | 1,800 | 2,100 | - | 1,400 | 1,650 | - |
レベルⅠ:自宅にいてほとんど外出しない者、高齢者施設で自立に近い状態で過ごしている者
レベルⅡ:自立している者
出典:「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書
高齢者が食べにくい食べ物・飲み物
高齢者が食べにくい、あるいは避けたほうがよい食べ物・飲み物について解説します。
噛み切りにくい:ゴボウ・レタス・タコ・イカなど
硬い・弾力がある食べ物は、高齢者が噛み切れずに、丸呑みするリスクが高くなります。
ゴボウやレタス、キャベツなどの食物繊維の多い野菜は硬いため、量を減らすかやわらかく煮るとよいでしょう。
タコやイカは、よく煮ても噛み切りにくいため、高齢者の食事にはあまり向きません。
むせやすい:飲み物全般
水や牛乳、お茶などの飲み物全般は、高齢者がむせる原因になります。とろみをつけたり、ストローで少しずつ摂取したりするなどの工夫が必要です。
むせるから、トイレに頻繁に行きたくなるから、などの理由で水分を制限すると、脱水症状を引き起こす可能性があります。他の栄養素と同様に、水分の摂取も積極的に行いましょう。
喉につまりやすい:もち・のり・わかめなど
もちやのり、わかめなどは、喉に張り付き、窒息の原因となりやすい食べ物です。特に嚥下機能が落ちている高齢者では、周囲の人が十分に注意する必要があります。
わかめの味噌汁や、のり茶漬けなどは避け、別の食べやすい食材を使いましょう。
口の中でまとまりにくい:そぼろ・お茶漬け・チャーハン
ぱさぱさしていたり、ぱらぱらと口の中でまとまりにくかったりする食べ物も、高齢者には注意が必要です。上手く咀嚼できずに、気管に入ってしまう恐れがあります。
お茶漬けや味噌汁など、固形物と液体が混ざった料理も、高齢者には食べにくい場合があることを、理解しておくとよいでしょう。
高齢者が食べやすいおすすめの食べ物・飲み物
高齢者が食べやすい、おすすめの食べ物・飲み物について解説します。
豆腐
豆腐はやわらかく、高齢者が食べやすい食べ物です。
絹ごし豆腐100gに含まれるタンパク質は4.9gと豊富で、特に筋力の落ちやすい高齢者にとって、筋肉のもととなるタンパク質を効率よく摂取できる食べ物としておすすめできます。
また大豆に含まれるサポニンと呼ばれる栄養素は、体内にたまった老廃物を除去する抗酸化作用を持つため、老化予防にも効果的です。
豆腐の栄養と効果効能・調理法・保存法|NANIWA SUPLI MEDIA
ヨーグルト
ヨーグルトは、適度なとろみがあり、高齢者の食事におすすめできる食べ物です。
高齢者はカルシウム不足によって骨粗しょう症を引き起こすリスクが高くなります。ヨーグルトに含まれるカルシウムの量は、100gあたり120mgです。
市販の個包装のヨーグルトは、1個80~90gのため、ヨーグルト1個あたりのカルシウム量は96~108mg。飲むヨーグルト200gを毎朝飲むと、220mgのカルシウムが摂取できます。
ヨーグルトの栄養と効果効能・調理法・保存法|NANIWA SUPLI MEDIA
とろろ
山芋をすりおろしたとろろは、適度な粘り気があり高齢者が誤嚥しにくい食べ物です。
山芋には食物繊維が豊富に含まれており、水分が不足して便秘になりがちな高齢者にとって、胃腸を整える効果を期待できます。とろろにすれば、噛む力のない高齢者でも食べやすいでしょう。
山芋の栄養と効果効能・調理法・保存法|NANIWA SUPLI MEDIA
ほうれん草や小松菜
食物繊維が多く、やわらかい野菜として、ほうれん草や小松菜がおすすめです。食物繊維が腸内環境を整え、便秘を予防する効果もあります。また鉄や葉酸など、不足しがちなミネラルも豊富なため、栄養バランスのよい食べ物です。
高齢者の食事として、ほうれん草や小松菜を調理するときは、やわらかく煮て、葉の部分だけを使いましょう。茎は硬く、高齢者には噛みにくいことがあります。
ほうれん草の栄養と効果効能・調理法・保存法|NANIWA SUPLI MEDIA
小松菜の栄養と効果効能・調理法・保存法|NANIWA SUPLI MEDIA
バナナ
バナナは粘性のある果物のため、口の中でまとまりやすく、高齢者が食べやすい食材です。
エネルギーへの変換に速効性のある糖質を豊富に含み、カロリーが不足しがちな高齢者のエネルギー源として期待できます。バナナにはタンパク質も多く、セロトニンの原料となるトリプトファンも含んでいます。
セロトニンは、精神を安定させる効果があり、日光浴で分泌が促進される物質です。室内にこもりがちな高齢者では、セロトニンが不足して抑うつ気分を感じていることもあり、セロトニンの原料となるトリプトファンを積極的に摂取するよう心がけるとよいでしょう。
バナナの栄養と効果効能・調理法・保存法|NANIWA SUPLI MEDIA
参考文献
- 高齢者の嚥下障害|LIFULL介護
- 老年期の感覚機能の低下―日常生活への影響|駒澤大学心理学論集(PDF)
- エネルギー|「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書(PDF)
- セロトニン|e-ヘルスネット
記事の監修
AYA ARAHARA
ヨガインストラクター。
ホテル、外資系化粧品メーカー、美容業の広報/PRとして業務を経て、アロマテラピーや美容業界の実用書等の、編集・執筆活動のほか、ライフワークとしてヨガインストラクターとしても活動している。
近著としては、「ママになっても美しい人の食事術」(PHP研究所)編集協力、「枯れないからだ」(河出書房新社)編集協力など多数。最新作は「寝る前5分の新習慣! 極上の眠りに導く安眠ヨガ」が好評発売中!
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