大麦の栄養と効果効能・調理法・保存法
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大麦の旬や原産地、主要な品種などの基本情報、よく似た野菜との栄養価の違い、大麦に含まれる栄養とその効果効能、栄養素を損なわない調理法や保存法などを紹介します。
大麦とは
大麦(barley)は、中央アジア原産のイネ科の穀物です。
日本では麦ごはんとして食べられる機会の多い穀物ですが、世界最古の穀物のひとつでもあり、紀元前7,000年ごろ(約9,000年前)には栽培が行われていたといいます。
日本には小麦よりも早く伝来し、平安時代にはすでに、白米と混ぜて麦ごはんとして食べられるようになりました。
食用にする場合はプレスして押し麦として利用しますが、大麦の用途は広く、麦茶のような飲料に用いられるほか、麦焼酎やウイスキー、ビールといったアルコールの原料としても用いられます。
アルコール類の原料として用いられる大麦が二条大麦という種類なのに対して、食用として用いられる大麦は六条大麦と呼ばれます。
小麦が、膨張性や伸展性に優れるグルテンというタンパク質を多く含むのに対して、大麦はグルテンを一切含まず、代わりにホルディンというタンパク質を含んでいます。
食物繊維は不溶性と水溶性をバランスよく含み、中心部(胚乳部)に存在するため摂取しやすい点も特徴です。
大麦の分類
大麦は用途によっていくつかの分類に分けられます。
二条大麦
二条大麦は、主にアルコール飲料の原料として用いられます。成る実が比較的大粒なことから、大粒大麦(だいりゅうおおむぎ)とも呼ばれます。
昔から日本国内で栽培されていた六条大麦と異なり、明治時代以降にヨーロッパから伝来しました。麦焼酎やウイスキーのほか、ビールの原料になることから、ビール麦とも呼ばれます。
なお、二条大麦がアルコール飲料の生産に用いられるのは、粒が大きいのに加えて、それぞれの大きさが揃っていることから、醸造の管理がしやすかったためです。
六条大麦
六条大麦は、主に食用とする大麦です。結実が比較的小粒なことから、小粒大麦(しょうりゅうおおむぎ)とも呼ばれます。
大麦を穀物として食用に用いる地域では主に六条大麦を栽培しており、中国や日本など東アジアに在来する大麦はすべて六条大麦です。
皮麦
大麦のなかでも、実と皮が糊状のもので固着していて、皮が剥きにくいものを皮麦と呼びます。
はだか麦
皮麦に対して、皮が剥きやすい突然変異種のことをはだか麦と呼びます。
二条大麦にも六条大麦にも、それぞれ皮麦とはだか麦がありますが、通常「はだか麦」と言った場合、六条大麦のはだか麦のことを指します。
なお、原種に近いのは皮麦ですが、はだか麦も紀元前6,000年ごろ(約8,000年前)には栽培が始まっていたとされています。
大麦の種類
一般に流通する大麦製品について、主な種類とその特徴を解説します。
押し麦
大麦のうち、主に六条大麦のはだか麦を、食べやすくするためローラーなどで押しつぶして扁平状にしたものを押し麦といいます。
大麦はそのままでは吸水力が低く調理しづらいため、食用の大麦は圧扁加工を施すのが一般的です。
もち麦
はだか麦にはさらに、うるち性遺伝子型を有する品種と、もち性遺伝子型を有する品種があります。
もち麦と呼ばれるのは、もち性遺伝子型を有するはだか麦です。一般的な押し麦には、うるち麦が用いられます。
うるち麦がアミロースを多く含み粘り気が少ないの対し、もち麦はアミロペクチンが豊富で、もっちりした粘り気があるのが特徴です。
また、もち麦は大麦の特徴的な栄養素のひとつであるβ-グルカン(水溶性食物繊維)が、うるち麦の1.5倍ほども含まれます。
胚芽押し麦
胚芽押し麦は、大麦のなかでも栄養素を豊富に含む部位である胚芽を残して精麦した麦のことです。
通常の押し麦に比べ、ビタミンB1やビタミンEが豊富に含まれています。
米粒麦
米粒麦は、大麦を通常の白米に近い形状に加工したものです。
扁平な押し麦と異なり、白米に混ぜ込んでも大麦が分かりづらいのが特徴で、より食べやすくなっています。
ビタバァレー
ビタバァレー(Vita Baley)は、押し麦にビタミンB1やビタミンB2を添加した栄養強化大麦です。
ビタミンB1は炭水化物をエネルギーに変換する際に欠かせない栄養素であり、主食として用いられる穀物の中では玄米に多く含まれています。
ビタバァレーなら、玄米と同等かそれ以上のビタミンB1を摂取できるため、白米の代用品としてはもちろん、玄米の代用品としても十分に機能するでしょう。
丸麦
精麦したのち、圧扁加工を施していない丸い状態の大麦を丸麦といいます。
圧扁する際の熱処理で損なわれてしまう風味が残っているため、大麦本来の風味を楽しめるのが特徴です。
大麦とその他の麦との違い
大麦とその他の麦の違いについて解説します。
小麦
小麦は、小麦粉の原料となるイネ科の穀物です。
小麦にはグルテンが含まれているため、ふっくらと焼き上げるパンやケーキのスポンジに適している一方で、吸水性が良くないため白米に混ぜて食べるのには向きません。
小麦の食物繊維は主に不溶性で、精白した部分(小麦粉)にはあまり含まれず、外皮や胚芽などの表皮の部分(小麦ふすま、小麦ブランとも)に多く含まれています。
ちなみに小麦と大麦の名前の由来は、実の大きさではなく成長過程における見た目から。大麦は小麦よりも大柄に見えることから、大麦と呼び名が付いたと言われています。
ライ麦
ライ麦は、小麦や大麦と同じくイネ科の穀物です。黒麦とも呼ばれます。
18世紀以前は、パン用穀物として多く使用されていましたが、小麦に比べてぼそぼそとした食感になることから、19世紀ごろから徐々に小麦が主要穀物として重宝されるようになりました。
しかし、ライ麦は小麦粉よりも栄養面で優秀であり、豊富な食物繊維やビタミンB群が含まれていることから、現在は健康志向の食品として用いられるケースの多い麦です。
栄養が豊富なだけでなく、小麦パンに比べてライ麦パンはカロリーや糖質も低いことから、減量やダイエットにも適しています。
オーツ麦(オートミール)
オーツ麦も、小麦・大麦・ライ麦などと同じくイネ科の穀物です。オーツ麦は英語名のOatから来ており、日本語では、燕麦(えんばく)と呼びます。
オーツ麦を潰して乾燥させたものが、オートミールです。
オートミールにはさまざまな種類があり、外皮を取り除いただけのもの、押し麦と同じように吸水性を高めたもの、加工してシリアルとして食べられるようにしたものなどが、すべてまとめてオートミールと呼ばれます。
洋風の朝食のイメージが強いオートミールですが、和風だしにもよくマッチするので、粥やお茶漬けのようにして、米の代用として使うことも十分に可能です。
大麦に含まれる成分・栄養素
大麦100gに含まれる成分・栄養素は下記表の通りです。
日本食品標準成分表2015年版(七訂)と、2018年の追補データより、乾燥状態、炊飯した状態、七分つき押し麦、米粒麦の栄養表を掲載しています。
食品名 | 単位 | 大麦(押し麦、乾燥) | 大麦(押し麦、炊飯) | 大麦(押し麦、 七分つき) | 大麦(米粒麦) |
廃 棄 率 | % | 0 | 0 | 0 | 0 |
エネルギー(kcal) | kcal/100 g | 346 | 124 | 341 | 343 |
エネルギー(kJ) | kJ/100 g | 1448 | 521 | 1427 | 1435 |
水 分 | g/100 g | 12.7 | 68.6 | 14 | 14 |
たんぱく質 | g/100 g | 6.7 | 2.2 | 10.9 | 7 |
アミノ酸組成によるたんぱく質 | g/100 g | 5.8 | 2 | -9.5 | -6.1 |
脂 質 | g/100 g | 1.5 | 0.5 | 2.1 | 2.1 |
トリアシルグリセロール当量 | g/100 g | 1.2 | 0.4 | 1.8 | -1.8 |
飽和脂肪酸 | g/100 g | 0.43 | 0.14 | 0.58 | -0.58 |
一価不飽和脂肪酸 | g/100 g | 0.13 | 0.04 | 0.2 | -0.2 |
多価不飽和脂肪酸 | g/100 g | 0.62 | 0.2 | 0.91 | -0.91 |
コレステロール | mg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 |
炭水化物 | g/100 g | 78.3 | 28.5 | 72.1 | 76.2 |
利用可能炭水化物(単糖当量) | g/100 g | 72.4 | 24.2 | -71.2 | 68.8 |
低分子量水溶性食物繊維 | g/100 g | 2.4 | 0.6 | - | - |
高分子量水溶性食物繊維 | g/100 g | 4.3 | 1.5 | 6.3 | 6 |
不溶性食物繊維 | g/100 g | 5.5 | 2.1 | 4 | 2.7 |
食物繊維総量 | g/100 g | 12.2 | 4.2 | 10.3 | 8.7 |
灰 分 | g/100 g | 0.7 | 0.2 | 0.9 | 0.7 |
ナトリウム | mg/100 g | 2 | Tr | 2 | 2 |
カリウム | mg/100 g | 210 | 38 | 220 | 170 |
カルシウム | mg/100 g | 21 | 6 | 23 | 17 |
マグネシウム | mg/100 g | 40 | 10 | 46 | 25 |
リン | mg/100 g | 160 | 46 | 180 | 140 |
鉄 | mg/100 g | 1.1 | 0.4 | 1.3 | 1.2 |
亜鉛 | mg/100 g | 1.1 | 0.4 | 1.4 | 1.2 |
銅 | mg/100 g | 0.22 | 0.08 | 0.32 | 0.37 |
マンガン | mg/100 g | 0.86 | 0.24 | 0.85 | - |
ヨウ素 | µg/100 g | 0 | 0 | - | Tr |
セレン | µg/100 g | 1 | Tr | - | 1 |
クロム | µg/100 g | 0 | 0 | - | Tr |
モリブデン | µg/100 g | 11 | 3 | - | 9 |
レチノール | µg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 |
α-カロテン | µg/100 g | - | - | - | - |
β-カロテン | µg/100 g | - | - | - | - |
β-クリプトキサンチン | µg/100 g | - | - | - | - |
β-カロテン当量 | µg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 |
レチノール活性当量 | µg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 |
ビタミンD | µg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 |
α-トコフェロール | mg/100 g | 0.1 | Tr | 0.2 | 0.1 |
β-トコフェロール | mg/100 g | 0 | 0 | Tr | 0 |
γ-トコフェロール | mg/100 g | 0 | 0 | 0.1 | 0 |
δ-トコフェロール | mg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 |
ビタミンK | µg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 |
ビタミンB1 | mg/100 g | 0.11 | 0.02 | 0.22 | 0.19 |
ビタミンB2 | mg/100 g | 0.03 | Tr | 0.07 | 0.05 |
ナイアシン | mg/100 g | 3.4 | 0.8 | 3.2 | 2.3 |
ナイアシン当量 | mg/100 g | 5 | 1.3 | - | - |
ビタミンB6 | mg/100 g | 0.13 | 0.03 | 0.14 | 0.19 |
ビタミンB12 | µg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 |
葉酸 | µg/100 g | 10 | 3 | 17 | 10 |
パントテン酸 | mg/100 g | 0.4 | 0.13 | 0.43 | 0.64 |
ビオチン | µg/100 g | 2.7 | 0.8 | - | 3.5 |
ビタミンC | mg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 |
食塩相当量 | g/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 |
アルコール | g/100 g | - | - | - | - |
硝酸イオン | g/100 g | - | - | - | - |
テオブロミン | g/100 g | - | - | - | - |
カフェイン | g/100 g | - | - | - | - |
タンニン | g/100 g | - | - | - | - |
ポリフェノール | g/100 g | - | - | - | - |
酢酸 | g/100 g | - | - | - | - |
調理油 | g/100 g | - | - | - | - |
有機酸 | g/100 g | - | - | - | - |
重量変化率 | % | - | 280 | - | - |
備考 | 歩留り:玄皮麦45~55 %、玄裸麦55~65 % | 乾35 g相当量を含む | 歩留り: 玄皮麦60~65 %、玄裸麦65~70 % | 別名: 切断麦白麦を含む歩留り: 玄皮麦40~50 %、玄裸麦50~60 % |
レチノール当量(μg)=レチノール(μg)+1/12β-カロテン当量(μg)
Tr(trace) :微量含まれているが、成分の記載限度に達していないもの。
(0):測定されていないが、文献等により含まれていないと推定されるもの。
-:未測定
出典:日本食品標準成分表2015年版(七訂)
大麦の効果・効能
大麦に含まれる栄養素が持つ効果・効能・働きを解説します。
食物繊維による整腸作用
大麦に含まれる栄養素のなかでも、特徴的なのが食物繊維の含有量です。実に、白米のおよそ20倍におよぶ食物繊維を含んでいます。
さらに優れているのは、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維がどちらもバランスよく含まれている点です。
食物繊維は消化器官で消化されずに腸まで届き、腸内細菌の栄養源となって腸内環境を整えるのに役立ちます。
また、不溶性食物繊維は水分を吸収してふくらみ、腸のぜん動運動を促進、水溶性食物繊維は粘性があるため、糖質などの消化吸収を遅らせ、血糖値の急激な上昇を抑制します。
カロリーが低くダイエットに効果的
大麦(押し麦)のカロリーは、白米のおよそ70%程度です。そのため、主食として取り入れることで摂取カロリーを減らすことができます。
また、食物繊維の効果によって、よく噛む必要があるため食べ過ぎ防止につながったり、消化器官内をゆっくり移動することで満腹感の持続につながったりといった効果も得られるでしょう。
カロリーや糖質の低さに加えて、さらなるダイエット効果が期待できます。
β-グルカンのコレステロール低下効果
押し麦に含まれる水溶性食物繊維・β-グルカンには、LDLコレステロールを低下させる働きがあります。
LDLコレステロールを低下させることで動脈硬化予防につながるほか、がん予防にも効果的であることが分かっています。
なお、β-グルカンの含有量は皮麦よりもはだか麦が多く、さらにうるち麦よりももち麦に多く含まれる傾向にあります。
ビタミンB1による疲労回復効果
胚芽押し麦やビタバァレーに含まれるビタミンB1には、疲労回復効果が期待できます。
ビタミンB群は体内の代謝を促進する効果があり、ビタミンB1は特に摂取した炭水化物(糖質)を円滑にエネルギーに変換するために欠かせない栄養素です。
そのため、日常的に運動をするアスリートやトレーニングを行う人で、普段から多くの炭水化物を摂取する人は、特に意識して取る必要があります。
ビタミンEによる抗酸化作用
胚芽押し麦に含まれるビタミンEには、活性酸素を抑制する抗酸化作用があり、さらにフリーラジカルを排除して過酸化脂質の生成を抑制・阻止する働きもあります。
ビタミンEの健康効果はそのほかにも、血行促進、ホルモンバランスや自律神経の安定、肌の代謝をサポートする美肌効果、と多岐にわたります。
大麦の調理方法
大麦の洗い方や調理方法を解説します。
大麦の洗い方
大麦を白米に混ぜ込んで麦ごはんとして炊く際は、炊いた後どの程度の期間で食べ切るかによって、研ぐべきか否かが変わります。
大麦を扁平状にした押し麦の表面にはヌカが付着しているので、そのまま炊飯して長時間放置すると、黄色っぽくなってしまったり、臭いのもとになってしまったりします。
そのため、炊いてすぐに食べる場合はともかく、ある程度の時間を置くことが分かっている場合は、白米と一緒に研いでおきましょう。
ただ、ヌカにも栄養が含まれているため、栄養を無駄なく摂取したい場合には、そのまま炊いても健康上の問題はありません。
大麦の食べ方
大麦をより効果的に、確実に摂取したいなら、白米に混ぜ込んで麦ごはんとして摂取するのがもっとも手軽です。
白米に混ぜ込む比率は、好みで調整してください。多い人では白米と大麦を1:1で混ぜるそうですが、初めて炊く場合は少量で試し、徐々に増やしていくとよいでしょう。なお、白米を炊飯する時よりも多めに水を入れると、パサつきにくくなります。
麦ごはん以外では、たっぷりのお湯で15~20分ほど茹でてサラダのトッピングとして使ったり、スープの具にしたり、多めの水で炊いて粥やリゾットにするのもおすすめです。
大麦の保存方法
大麦は、白米と同じように炊いた後ラップなどで小分けして、冷凍保存することが可能です。冷凍での保存期間は、2~3週間を目安としてください。