胡椒の栄養と効果効能・調理法・保存法
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胡椒の原産地や主要な種類などの基本情報、似た食品との違い、胡椒に含まれる栄養とその効果効能、栄養素を損なわない調理法や保存法などを紹介します。
胡椒とは
胡椒(pepper)は、コショウ科に属するつる性の常緑植物で、一般的に実を加工した香辛料のことを指します。胡椒の原産地はインド南部ですが、現在はインドネシア・マレーシア・ベトナム・スリランカなどの熱帯地域で広く栽培されています。
胡椒の起源は古く、紀元前から輸出品として扱われていました。冷蔵・冷凍技術のなかった当時は、香辛料を利用して肉などの生ものを長期間保存することが一般的でした。そのため、胡椒などの香辛料は、高く取引されていたのです。
現在も高級輸入品の名残があり、「産出国のグレード規格」や「輸入国規格」が設けられています。日本では輸入規格がないため、メーカーによって規格はさまざまです。
胡椒の木は、植えてから3年ほどで実をつけるようになります。ぶどうの房のように実がなるのが特徴で、1つの穂に50~60個の実がつき、1本のつるから2kg程度の実が収穫できる植物です。
収穫の時期は胡椒の種類によって異なり、収穫後の乾燥方法を変えることで、見た目や味の違う商品ができます。
胡椒と似ている食べ物
胡椒と風味が似ている食べ物や、胡椒と間違えやすい食べ物について違いを説明します。
ヒハツ(島胡椒)
ヒハツとは、胡椒と同じコショウ科の植物で、実も香辛料として利用されます。インドネシアが原産地で、日本では沖縄県で島胡椒の名で呼ばれています。
胡椒よりもスパイシーで、甘い香りをもつことが特徴です。唐辛子に似た風味をもつことから、唐辛子が発見されるまでは、ヨーロッパでも盛んに取引されていました。現在ヨーロッパでは、ほとんど使われることはありませんが、日本では体を温める効果があることから、注目を集めています。
柚子胡椒
柚子胡椒(ゆずこしょう)は、柚子と唐辛子、塩をすり潰して熟成させた調味料の1種です。日本原産で、九州地方では古くから家庭で使われていた調味料ですが、全国的に広まったのはごく最近のことです。
柚子胡椒と名前がついていますが、胡椒は入っていません。
山椒
山椒(サンショウ)はミカン科の植物で、芽や実、果皮を香辛料として利用します。日本・中国・朝鮮半島が原産地で、日本料理にも多く使用されてきました。
七味唐辛子や、ちりめん山椒の原料としても用いられ、ほかの食材と併せて使用されることもあります。主に洋食に用いられる胡椒とは異なり、山椒は和食に合う風味であることが特徴です。
胡椒の種類
胡椒は、収穫時期や乾燥方法の違いによって、呼び名が変わります。胡椒の主な種類について、その違いと使い方を解説します。
ブラックペッパー
ブラックペッパー(黒胡椒)は、一般的に使われる胡椒です。完熟する前の胡椒の実を乾燥させることで、黒色になります。乾燥により、ブラックペッパーの実の表面にはしわが入っているのが特徴です。
果皮を取り除いたホワイトペッパーよりも辛味が強く、臭み消しにもなることから、とくに肉料理に使用されます。
ホワイトペッパー
ホワイトペッパー(白胡椒)とは、完熟後に乾燥させた胡椒の実を水に漬け、果皮を軟らかくして外した胡椒です。黒い果皮を取り除いているため、見た目は白色をしています。
果皮がないため、ブラックペッパーよりも辛味が弱く、魚料理やホワイトソース、ポタージュにおすすめです。
グリーンペッパー
グリーンペッパー(青胡椒)は、完熟前に収穫し、乾燥させずに塩漬けやフリーズドライで加工した胡椒です。ブラックペッパーとは異なり乾燥させていないため、実が緑(青)なことから、グリーンペッパーと呼ばれます。
ほかの胡椒は挽いて粗挽きにしたり、パウダー状にすり潰したりして使用しますが、グリーンペッパーは、ホールのまま使用するのが特徴です。肉料理や魚料理と相性がよく、味のアクセントとして用いられます。
ピンクペッパー
ピンクペッパー(赤胡椒)は、完熟後の実を乾燥させた胡椒です。赤く熟した胡椒の実から作られるほか、コショウボクと呼ばれるウルシ科の植物の実を用いることもあり、原料によっては厳密には胡椒ではないケースもあります。
日本では、コショウボクの実を利用したピンクペッパーが広く流通しています。コショウボクの実を原料としたピンクペッパーは、胡椒よりも辛味が弱く、甘味や酸味も感じられることが特徴です。
フランス料理や東南アジア料理、スイーツと相性がよいとされています。
胡椒に含まれる成分・栄養素
胡椒100gに含まれる成分・栄養素は下記表の通りです。
黒胡椒は、果皮の成分が含まれるため、白胡椒よりもミネラルやビタミンが豊富に含まれます。とくにカルシウムやマグネシウム、ビオチンは、白胡椒と比較して多いことが特徴です。
日本では、黒胡椒と白胡椒を混ぜた混合タイプも多く流通しています。栄養素は、黒胡椒と白胡椒のちょうど中間の量です。
食 品 名 | 単位 | こしょう 黒 粉 | こしょう 白 粉 | こしょう 混合 粉 | |
廃 棄 率 | % | 0 | 0 | 0 | |
エネルギー | kJ | 1532 | 1590 | 1561 | |
kcal | 362 | 376 | 369 | ||
水 分 | g | 12.7 | 12.3 | 12.5 | |
たんぱく質 | アミノ酸組成によるたんぱく質 | g | -8.9 | -7 | -7.4 |
たんぱく質 | g | 11 | 10.1 | 10.6 | |
脂質 | 脂肪酸のトリアシルグリセロール当量 | g | -5.5 | -5.9 | -5.7 |
コレステロール | mg | 0 | 0 | 0 | |
脂質 | g | 6 | 6.4 | 6.2 | |
炭水化物 | 利用可能炭水化物(単糖当量) | g | -42.3 | -42.5 | -42.4 |
g | |||||
利用可能炭水化物(質量計) | g | -38.5 | -38.7 | -38.5 | |
差引き法による利用可能炭水化物 | g | 69.2 | 73.7 | 72 | |
* | * | * | |||
食物繊維総量 | g | - | - | - | |
糖アルコール | g | - | - | - | |
炭水化物 | g | 66.6 | 70.1 | 68.3 | |
有機酸 | g | - | - | - | |
灰分 | g | 3.7 | 1.1 | 2.4 | |
無機質 | ナトリウム | mg | 65 | 4 | 35 |
カリウム | mg | 1300 | 60 | 680 | |
カルシウム | mg | 410 | 240 | 330 | |
マグネシウム | mg | 150 | 80 | 120 | |
リン | mg | 160 | 140 | 150 | |
鉄 | mg | 20 | 7.3 | 14 | |
亜鉛 | mg | 1.1 | 0.9 | 1 | |
銅 | mg | 1.2 | 1 | 1.1 | |
マンガン | mg | 6.34 | 4.45 | - | |
ヨウ素 | μg | 5 | 2 | 3 | |
セレン | μg | 5 | 2 | 2 | |
クロム | μg | 30 | 5 | 12 | |
モリブデン | μg | 14 | 24 | 17 | |
ビ タ ミ ン | レチノール(ビタミンA) | μg | 0 | 0 | 0 |
α|カロテン | μg | 18 | - | 9 | |
β|カロテン | μg | 170 | - | 84 | |
β|クリプトキサンチン | μg | 4 | - | 2 | |
β|カロテン当量 | μg | 180 | Tr | 89 | |
レチノール活性当量 | μg | 15 | 0 | 7 | |
ビタミンD | μg | 0 | 0 | 0 | |
α-トコフェロール | mg | - | - | - | |
β-トコフェロール | mg | - | - | - | |
γ-トコフェロール | mg | - | - | - | |
δ-トコフェロール | mg | - | - | - | |
ビタミンK | μg | - | - | - | |
ビタミンB1 | mg | 0.1 | 0.02 | 0.06 | |
ビタミンB2 | mg | 0.24 | 0.12 | 0.18 | |
ナイアシン | mg | 1.2 | 0.2 | 0.7 | |
ナイアシン当量 | mg | -2.2 | -1.2 | -1.8 | |
ビタミンB6 | mg | - | - | - | |
ビタミンB12 | μg | 0 | 0 | 0 | |
葉 酸 | μg | 0 | 0 | 0 | |
パントテン酸 | mg | - | - | - | |
ビ オ チ ン | μg | 20 | 4.7 | 15 | |
ビタミンC | mg | 0 | 0 | 1 | |
アルコール | g | - | - | - | |
食塩相当量 | g | 0.2 | 0 | 0.1 | |
備 考 | 別名: ブラックペッパー | 別名: ホワイトペッパー |
レチノール当量(μg)=レチノール(μg)+1/12β-カロテン当量(μg)
Tr(trace) :微量含まれているが、成分の記載限度に達していないもの。
(0):測定されていないが、文献等により含まれていないと推定されるもの。
-:未測定
出典:日本食品標準成分表2020年版(八訂)
胡椒の効果・効能
胡椒に含まれる栄養素がもつ効果・効能・働きを解説します。
ピペリンが代謝促進・血流をよくする
ピペリンとは、胡椒やヒハツに含まれる辛味成分です。とくに黒胡椒に多く含まれています。
ピペリンには、エネルギー代謝を促進したり、老化を予防したりする効果があると考えられています。エネルギーの代謝促進により、ダイエット効果を期待してサプリメントにも使用される成分です。
また、血流をよくして体を温める効果があることも知られています。胡椒が古くから薬や漢方として使われてきたのは、この血流改善効果を期待したためです。ピペリンは、肩こりや冷え性を改善すると考えられています。
マグネシウムが心疾患のリスクを下げる
マグネシウムは、カルシウムやリンと同様に、骨や歯の形成に欠かせない栄養素です。また、神経伝達にもかかわっている重要なミネラルとして知られています。
血中のマグネシウムが不足すると、骨や歯からマグネシウムが溶け出し、血中マグネシウムの量を調節します。マグネシウムの摂取量不足は、骨粗しょう症の原因となります。また、神経伝達がうまくいかず、筋肉の痙攣や心疾患などのリスクが高まります。
マグネシウムの効果・1日の摂取目安量・多く含む食品・効率よく摂取する方法|NANIWA SUPLI MEDIA
クロムが血糖を下げる
クロムとは、血中のブドウ糖を細胞内に取り込む働きをもった、ミネラルの1種です。食べ物に含まれるクロムは、金属製品に使われる六価クロムとは異なり、毒性はありません。
食べ物を摂取したときに体内に吸収されるクロムは、摂取量の3%未満と考えられています。体内に吸収されにくく、体外に排出されやすい栄養素です。
クロムは、血糖を下げるホルモンであるインスリンの働きを助け、糖代謝を促進することで、血糖値を安定させます。
クロムの効果・1日の摂取目安量・多く含む食品|NANIWA SUPLI MEDIA
モリブデンで貧血予防
モリブデンは、肝臓や腎臓などに存在して、代謝にかかわるミネラルの1つです。主に尿酸の代謝に関与し、プリン体を尿酸に分解し、尿として排泄させる働きをしています。
もう1つの働きとして、モリブデンは鉄の作用を助けて、造血に関与することが知られています。貧血予防として、鉄を摂取するときは、モリブデンを多く含む食べ物も一緒に摂取するとより効果的です。
モリブデンの効果・1日の摂取目安量・多く含む食品・効率よく摂取する方法|NANIWA SUPLI MEDIA
ビオチンが皮膚を健康に保つ
ビオチンとは、皮膚や髪を健康に保つ働きをもったビタミンの1種です。
体内で抗炎症物質を生成させ、アレルギー症状を和らげる効果があります。ビオチンによるヒスタミンの産生抑制効果により、脂漏性皮膚炎やアトピー性皮膚炎、抜け毛、白髪の予防に効果的であると考えられます。
ビオチンの効果・1日の摂取目安量・多く含む食品|NANIWA SUPLI MEDIA
胡椒の形状別の食べ方と注意点
胡椒の形状別の食べ方と注意点を解説します。
ホールの胡椒を使う方法
市販されている胡椒の主な形状は、ホール・クラッシュ・粗挽き・グラインド・パウダーです。このうち、ホールは胡椒の実を砕いたりすり潰したりすることなく、実のままで販売されています。
ホール状の胡椒は、ミルを用いて挽いてもよいですが、そのまま料理に使用することもできます。ホールのままの胡椒は、肉料理や魚料理に使うのがおすすめです。
生ハムやサーモンにホール状の胡椒をトッピングすれば、おしゃれなカフェのように演出できます。また、パスタやリゾットのトッピングとしても、見た目と味を楽しめます。
クラッシュ・粗挽き胡椒の調理方法
ホールを砕いたものをクラッシュ、より細かく砕いたものを粗挽きと呼びます。胡椒を砕くことで、香りが強くなり、味が料理になじみやすくなることが特徴です。
クラッシュは肉料理の臭み取りとしても用いられます。パスタやリゾットなど、辛味を特徴づけたいときにおすすめの胡椒です。
粒の大きさが気になる場合は、クラッシュよりも細かい粗挽きを使用するとよいでしょう。より料理になじみ、辛味や風味もホールより持続しやすいメリットがあります。
グラインド・パウダー状の胡椒の使い方
粗挽きよりも細かい状態のグラインド、グラインドよりも細かい状態のパウダーは、主に料理の下ごしらえに使われます。粒感がないため、調理後の料理にあとから味付けをしたいときにもピッタリです。
粒子は細かいですが、胡椒の特徴である辛味は健在。料理の種類にかかわらず、使用できることが特徴です。
胡椒を食べる際の注意点
胡椒を食べすぎると、下痢や腹痛などの症状が現れることがあります。胡椒に含まれる辛味成分が、胃や腸を刺激するためです。
料理の味付けに使用する量は、問題ありません。ただし、刺激物に弱い体質の人や、医師から刺激物の摂取を禁止されている人は、胡椒を使った料理を食べすぎないように注意しましょう。
胡椒の保存方法
胡椒の栄養素を損なわない保存方法を解説します。
ホールとパウダーで賞味期限が異なる
胡椒の実をそのままホールで保存するときと、粗挽きやパウダー状に砕いている場合では、賞味期限が異なります。
市販されているホールの胡椒は3年程度、砕いている胡椒は2年程度が賞味期限に設定されています。粗挽きやパウダー状の胡椒は、開封後は風味が落ちやすくなるため、少量を購入するか、ホールで購入して使う分だけミルで挽くのがおすすめです。
常温保存するときは光に注意
胡椒は常温でも保存できますが、常温保存をするときは光に注意しましょう。
直射日光の当たる場所に保存すると、容器内の温度が上がることで、胡椒の香りがとんでしまいます。同じ理由から、コンロの近くで保管することもおすすめできません。
胡椒は直接フライパンや鍋に入れない
湿気も、胡椒が劣化する原因の1つです。フライパンや鍋の上で、胡椒を振ると、胡椒の容器内に蒸気が入って湿気やすくなります。
香辛料である胡椒は、香りが大切です。調理中に胡椒を使用する際は、皿や手のひらに胡椒を出してから、料理に入れると風味を損なわずに保存できます。