ライ麦の栄養と効果効能・調理法・保存法
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ライ麦の原産地などの基本情報、ライ麦に含まれる栄養とその効果効能、栄養素を損なわない調理法や保存法などを紹介します。
ライ麦とは
ライ麦(rye)は、小麦や大麦と同じイネ科の穀物で、黒麦とも呼ばれます。原産地は、小麦や大麦よりもやや北の地域となる、小アジアからコーカサスあたりと考えられています。
劣悪な環境への耐性があるため、18世紀以前はパン用穀物として多く栽培されていましたが、小麦に比べてぼそぼそとした食感になることから、19世紀ごろから徐々に小麦が主要穀物として重宝されるようになりました。
しかし、ライ麦は小麦粉よりも栄養面で優秀であり、食物繊維やビタミンB群が豊富に含まれていることから、現在は健康志向の人を中心に再び注目されています。
ライ麦に含まれる成分・栄養素
ライ麦100gに含まれる成分・栄養素は下記表の通りです。
ライ麦パン、ライ麦粉の成分表に加え、参考のため、食パン、薄力粉の成分表を併記しています。
全粒粉のライ麦粉と薄力粉を比較すると、次のような違いがあります。
- カロリーが10%低い
- タンパク質を1.5倍含有
- 食物繊維を5倍含有。水溶性食物繊維は3倍、不溶性食物繊維は8倍
- カリウムを4倍含有
- カルシウムを1.5倍含有
- マグネシウムを8倍含有
- リンを5倍含有
- 鉄を7倍含有
- 亜鉛を11倍含有
- 銅を5倍含有
- ビタミンB1を4倍、ビタミンB2を7倍、ナイアシンを3倍、ビタミンB6を7倍、葉酸を7倍、パントテン酸を1.6倍、ビオチンを8倍含有
- ビタミンE(α-トコフェロール)を3倍含有
食品名 | 単位 | ライ麦パン | 食パン | ライ麦粉 | ライ麦粉(全粒粉) | 薄力粉 |
廃 棄 率 | % | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
エネルギー(kcal) | kcal/100 g | 264 | 264 | 351 | 334 | 367 |
エネルギー(kJ) | kJ/100 g | 1105 | 1105 | 1469 | 1397 | 1535 |
水 分 | g/100 g | 35 | 38 | 13.5 | 12.5 | 14 |
たんぱく質 | g/100 g | 8.4 | 9.3 | 8.5 | 12.7 | 8.3 |
アミノ酸組成によるたんぱく質 | g/100 g | 6.6 | 7.5 | 7.7 | 10.5 | 7.6 |
脂 質 | g/100 g | 2.2 | 4.4 | 1.6 | 2.7 | 1.5 |
トリアシルグリセロール当量 | g/100 g | -2 | -4.1 | 1.2 | -2 | 1.3 |
飽和脂肪酸 | g/100 g | -0.9 | -1.9 | 0.24 | -0.4 | 0.34 |
一価不飽和脂肪酸 | g/100 g | -0.57 | -1.15 | 0.19 | -0.31 | 0.13 |
多価不飽和脂肪酸 | g/100 g | -0.44 | -0.87 | 0.7 | -1.19 | 0.75 |
コレステロール | mg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
炭水化物 | g/100 g | 52.7 | 46.7 | 75.8 | 70.7 | 75.8 |
利用可能炭水化物(単糖当量) | g/100 g | - | 49.1 | 64.4 | 61.2 | 80.3 |
水溶性食物繊維 | g/100 g | 2 | 0.4 | 4.7 | 3.2 | 1.2 |
不溶性食物繊維 | g/100 g | 3.6 | 1.9 | 8.2 | 10.1 | 1.3 |
食物繊維総量 | g/100 g | 5.6 | 2.3 | 12.9 | 13.3 | 2.5 |
灰 分 | g/100 g | 1.7 | 1.6 | 0.6 | 1.4 | 0.4 |
ナトリウム | mg/100 g | 470 | 500 | 1 | 1 | Tr |
カリウム | mg/100 g | 190 | 97 | 140 | 400 | 110 |
カルシウム | mg/100 g | 16 | 29 | 25 | 31 | 20 |
マグネシウム | mg/100 g | 40 | 20 | 30 | 100 | 12 |
リン | mg/100 g | 130 | 83 | 140 | 290 | 60 |
鉄 | mg/100 g | 1.4 | 0.6 | 1.5 | 3.5 | 0.5 |
亜鉛 | mg/100 g | 1.3 | 0.8 | 0.7 | 3.5 | 0.3 |
銅 | mg/100 g | 0.18 | 0.11 | 0.11 | 0.44 | 0.08 |
マンガン | mg/100 g | 0.87 | 0.24 | - | 2.15 | 0.43 |
ヨウ素 | µg/100 g | - | 1 | - | 0 | Tr |
セレン | µg/100 g | - | 24 | - | 2 | 4 |
クロム | µg/100 g | - | 1 | - | 1 | 2 |
モリブデン | µg/100 g | - | 18 | - | 65 | 12 |
レチノール | µg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
α-カロテン | µg/100 g | 0 | 0 | - | - | - |
β-カロテン | µg/100 g | 0 | 2 | - | - | - |
β-クリプトキサンチン | µg/100 g | 0 | 0 | - | - | - |
β-カロテン当量 | µg/100 g | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 |
レチノール活性当量 | µg/100 g | 0 | Tr | 0 | 0 | 0 |
ビタミンD | µg/100 g | Tr | 0 | 0 | 0 | 0 |
α-トコフェロール | mg/100 g | 0.3 | 0.5 | 0.7 | 1 | 0.3 |
β-トコフェロール | mg/100 g | 0.1 | 0.1 | 0.3 | 0.3 | 0.2 |
γ-トコフェロール | mg/100 g | 0.2 | 0.7 | 0 | 0 | 0 |
δ-トコフェロール | mg/100 g | 0.1 | Tr | 0 | 0 | 0 |
ビタミンK | µg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
ビタミンB1 | mg/100 g | 0.16 | 0.07 | 0.15 | 0.47 | 0.11 |
ビタミンB2 | mg/100 g | 0.06 | 0.04 | 0.07 | 0.2 | 0.03 |
ナイアシン | mg/100 g | 1.3 | 1.2 | 0.9 | 1.7 | 0.6 |
ビタミンB6 | mg/100 g | 0.09 | 0.03 | 0.1 | 0.22 | 0.03 |
ビタミンB12 | µg/100 g | 0 | (Tr) | 0 | 0 | 0 |
葉酸 | µg/100 g | 34 | 32 | 34 | 65 | 9 |
パントテン酸 | mg/100 g | 0.46 | 0.47 | 0.63 | 0.87 | 0.53 |
ビオチン | µg/100 g | - | 2.4 | - | 9.5 | 1.2 |
ビタミンC | mg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
食塩相当量 | g/100 g | 1.2 | 1.3 | 0 | 0 | 0 |
アルコール | g/100 g | - | - | - | - | - |
硝酸イオン | g/100 g | - | - | - | - | - |
テオブロミン | g/100 g | - | - | - | - | - |
カフェイン | g/100 g | - | - | - | - | - |
タンニン | g/100 g | - | - | - | - | - |
ポリフェノール | g/100 g | - | - | - | - | - |
酢酸 | g/100 g | - | - | - | - | - |
調理油 | g/100 g | - | - | - | - | - |
有機酸 | g/100 g | - | - | - | - | - |
重量変化率 | % | - | - | - | - | - |
備考 | 主原料配合: ライ麦粉 50 % | 歩留り: 65~75 % |
レチノール当量(μg)=レチノール(μg)+1/12β-カロテン当量(μg)
Tr(trace) :微量含まれているが、成分の記載限度に達していないもの。
(0):測定されていないが、文献等により含まれていないと推定されるもの。
-:未測定
出典:日本食品標準成分表2015年版(七訂)
ライ麦の効果・効能
ライ麦に含まれる栄養素が持つ効果・効能・働きを解説します。
タンパク質
ライ麦には、小麦粉の1.5倍のタンパク質が含まれています。
タンパク質は、骨や歯、皮膚、血管、内臓、髪の毛など、人体のあらゆる部位に利用されているため、不足するとさまざまな不調につながります。
積極的にトレーニングやスポーツをする人だけでなく、普段からの健康維持として欠かせない栄養素です。
食物繊維
ライ麦粉には、食物繊維が小麦粉の5倍ほど含まれています。
ライ麦粉には水溶性食物繊維と不溶性食物繊維がバランスよく含まれており、腸内環境改善にうってつけです。
水溶性食物繊維は水に溶けるとゲル状になり、便を柔らかくして便秘の予防・改善に効果を発揮します。
不溶性食物繊維は水に溶けず、便のかさを増やして腸のぜん動運動を促すことで、消化吸収や便通を改善します。
カリウム
ライ麦粉には、小麦粉の4倍のカリウムが含まれています。
カリウムは人体に必須のミネラルのひとつで、細胞の浸透圧を維持・調整したり、水分を保持したり、ナトリウムを身体の外へ排出したりするのに重要な役割を果たしています。
ナトリウムを排出することで血圧を下げ、心血管疾患・脳卒中・冠動脈性心疾患といった、高血圧を起因とする各種生活習慣病を予防します。
カルシウム
ライ麦粉には、小麦粉の1.5倍のカルシウムが含まれています。
カルシウムは、骨や歯の形成に大きく関わる人体に必須のミネラルのひとつです。
体重の1~2%の量(成人でおよそ1kg)が体内に存在していて、人間の身体にもっとも多く含まれるミネラルでもあります。
十分なカルシウムの摂取は、骨量を維持することに繋がるとともに、骨粗しょう症やそれを原因とする骨折の予防につながります。
マグネシウム
ライ麦粉には、小麦粉の8倍のマグネシウムが含まれています。
マグネシウムは、カルシウムの働きをサポートし、カルシウムが骨から溶出するのを防いだり、血流を整えたりする働きを持ったミネラルです。その働きから、骨のミネラルとも呼ばれます。
また炭水化物(糖質)の代謝にも必須であり、十分なマグネシウムがあることによってエネルギーの代謝がスムーズになります。
鉄
ライ麦粉には、小麦粉の7倍の鉄が含まれています。
鉄は、血液中のヘモグロビンの一部となって全身に酸素を運ぶという重要な働きを持っており、不足すると鉄欠乏性貧血による疲れ・だるさ・頭痛・眠気などの症状に繋がります。
また酸素を運ぶだけでなく、酸素を利用したエネルギーの代謝サイクル、呼吸・DNAの合成と修復・異物の代謝など、細胞内でのエネルギー代謝にも関わっています。
特に酸素は脳のエネルギーとなるブドウ糖を代謝するのに必要なため、酸素の供給が不足すると脳が正常に働きにくくなり、めまいや頭痛、眠気といった症状が現れてしまいます。
亜鉛
ライ麦粉には、小麦粉の11倍の亜鉛が含まれています。
亜鉛は、タンパク質の代謝やDNAの合成に必要なため、体や骨が成長するうえで重要な役割を果たすほか、胎児や乳児が正常に発育し生命を維持するために欠かせない栄養素です。
そのため特に、妊娠中や乳児期の女性、また子どもの体は、十分な成長・発達のために亜鉛を必要とします。
また筋肉トレーニングをしている人の場合、傷ついた筋組織の修復や新陳代謝がスムーズに行われることで、トレーニングの効果を実感しやすくなるといった効果も得られるでしょう。
その他にも、免疫機能や味覚、嗅覚などが正常に働くためにも亜鉛は必須です。
ビタミンB群
ライ麦粉には、小麦粉に比べて各種ビタミンB群が豊富に含まれています。
ビタミンB群は酵素の働きを助ける補酵素として働く栄養素で、糖質・脂質・タンパク質の代謝をサポートする水溶性ビタミンです。
疲労回復、発育のサポート、貧血予防、免疫力強化、ストレス抵抗力アップ、皮膚炎予防、脱毛予防など、あらゆる健康維持に効果を発揮します。
ビタミンE
ライ麦粉には、小麦粉の3倍のビタミンE(α-トコフェロール)が含まれています。
ビタミンEは、強い抗酸化能力と過酸化脂質を抑制する働きから、老化を防ぐ「若返りのビタミン」として知られる脂溶性ビタミンの一種です。
さらに、過酸化脂質の原因となる活性酸素を抑制するだけでなく、フリーラジカルを排除する働きもあり、過酸化脂質が連鎖的に生成されるのを防ぐことで、動脈硬化・がん・老化・免疫機能の低下予防などに効果を発揮します。
ライ麦の調理方法
ライ麦の調理方法を解説します。
ライ麦のおすすめの食べ方
ライ麦を摂取したい場合は、ライ麦粉を使ったライ麦パンの形で摂取するのがもっとも手軽です。
市販のライ麦パンを利用してもいいですし、ホームベーカリーがあれば家庭で作ることもできます。
あまり一般的ではありませんが、ライ麦の実をそのまま食べることも可能です。その場合は、米を炊飯する際に混ぜ込んで雑穀米とするとよいでしょう。
ただしライ麦は非常に硬いので、その他の雑穀よりも長い時間水に浸漬する必要があります。
ライ麦を調理する際の注意点
手ごねでライ麦パンを作る際、小麦粉と同じようにこねないよう注意しましょう。
ライ麦粉にはペントザンという水和能力の高い多糖類が含まれており、小麦粉よりも糊化しやすい性質があります。そのため、小麦粉のようにこねるとべたついてしまうのです。
ライ麦粉を使ってパン生地を作る際は、切って混ぜたり、押し伸ばして戻す、という押しこねによって練るようにしましょう。
ライ麦パンの保存方法
ライ麦粉の保存方法は一般的な小麦粉などと同様です。ここでは、ライ麦パンの保存方法を解説します。
ライ麦パンは、ライ麦粉の割合が多いほど保存性がよくなります。
かたまりのまま常温で保存して、食べるときに都度スライスするのが保存方法としては最適です。
長期保存したい場合には、1回に使う分量ずつラップに包み、フリーザ―バッグに入れて冷凍しましょう。冷凍したライ麦パンは、自然解凍でも食べられますが、トースターで温め直せばよりおいしくいただけます。