いちじくの栄養と効果効能・調理法・保存法
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いちじくの旬や原産地、主要な品種などの基本情報、いちじくに含まれる栄養とその効果効能、栄養素を損なわない調理法や保存法などを紹介します。
いちじくとは
いちじく(Fig)は、イラクサ目クワ科イチジク属の木になる果実。実を割ると、涙型のつぶつぶが中に入っており、これを可食部とします。
いちじくは一見すると花が見えないことから「無花果(花の無い果実)」と漢字でも書きますが、このつぶつぶがいちじくの花にあたります。いちじくのように、果実の中に包み込まれた花のことを「隠頭花序(いんとうかじょ)」といいます。
いちじくの原産地
いちじくの原産地は、アラビア半島南部や地中海沿岸地方と言われています。その歴史は古く、古代エジプトの壁画に描かれているのが発見されています。また、旧約聖書にたびたび登場したり、アダムとイブが裸を隠すのに使ったのはいちじくの葉と言われていたりと、世界的に有名な果物と言えるでしょう。
日本には、江戸時代にペルシャと中国を経由して伝来します。当初は葉を薬として用いていましたが、のちに果物として食べられるようになりました。
いちじくの旬
いちじくの品種には、初夏から夏にかけて実がなるもの、秋に実がなるもの、初夏と秋の両方で実がなるものがあり、6月〜7月頃・8月〜10月頃が旬です。国内では、主に愛知県、和歌山県、福岡県、兵庫県で生産されています。
いちじくの品種・種類
いちじくは世界中で栽培されており、国内だけでも100種以上の品種があります。いちじくの旬は1年のうちに2回あり、夏頃に収穫される「夏果」と秋頃の収穫される「秋果」で大きく分類することができます。
以下では、夏果と秋果、夏秋兼用の代表的な品種を紹介します。
夏果
夏果は、実の大きさが秋果に比べて大きく、流通量が少ないいちじくです。
ザ・キング
ザ・キングは海外品種で、国内の主な生産地は本州から四国、九州。形は卵型で140~150g程度、黄緑色の果皮となめらかな舌触りが特徴です。
コナドリア
コナドリアは、アメリカ生まれの白いちじくの一種です。実は50~100gほどの小ぶりで、果肉はねっとりと柔らかく、甘みは強くありませんがバランスが取れた味わいがあります。ドライいちじくとしても用いられる品種です。
ビオレドーフィン
ビオレドーフィンは、主に千葉県で栽培されているいちじくです。果皮が薄いため剥かずにそのまま食べることができます。果汁が多くフルーティで、強い甘さが特徴。収穫が安定しないため、流通量が少ない品種です。
秋果
秋果は、夏果に比べて実の大きさが全体的に小さい分、凝縮した濃厚な味わいが楽しめます。
蓬莱柿(ほうらいし)
1624年頃にポルトガル人によって中国のいちじくが持ち込まれ、それ以来日本に定着し長く栽培されてきました。そのため蓬莱柿は、「在来種」や「日本いちじく」と呼ばれることもあります。
丸みがある形で、実は60~100gと小ぶり。甘みの中にほのかな酸味あり、上品な味わいです。
ビオレ・ソリエス
ビオレ・ソリエスは、フランス原産のいちじくです。糖度が20度以上で甘みが強く、ねっとりした食感があります。濃い紫色の果皮が特徴です。
国内では生産量が非常に少なく、市場にめったに出回らないため、「幻の黒いちじく」と呼ばれています。
夏秋兼用
夏秋兼用のいちじくは、夏果と秋果の特徴をあわせ持っています。
桝井(ますい)ドーフィン
国内で販売されるいちじくのほとんどが桝井ドーフィンです。明治時代に広島県出身の桝井光次郎氏がアメリカより種を持ち帰り、全国に広まっていきました。
実の形はしずく型で、熟した果皮は赤褐色。とてもみずみずしく、さっぱりとした味わいが特徴です。
とよみつひめ
とよみつひめは福岡県生まれで、2006年に品種登録された新しいいちじくです。赤紫色の果皮、肉厚でしっかりとした食感、平均糖度が17度以上でメロンを思わせるような甘みがあります。
いちじくに含まれる成分・栄養素
いちじく100gに含まれる成分・栄養素は下記表の通りです。生食、ドライいちじく、缶詰の成分表を並記しています。
食品名 | 単位 | いちじく 生 | いちじく 乾 | いちじく 缶詰 |
廃 棄 率 | % | 15 | 0 | 0 |
エネルギー(kcal) | kcal/100 g | 54 | 291 | 81 |
エネルギー(kJ) | kJ/100 g | 226 | 1216 | 339 |
水 分 | g/100 g | 84.6 | 18 | 79.7 |
たんぱく質 | g/100 g | 0.6 | 3 | 0.5 |
アミノ酸組成によるたんぱく質 | g/100 g | 0.4 | -2 | -0.3 |
脂 質 | g/100 g | 0.1 | 1.1 | 0.1 |
トリアシルグリセロール当量 | g/100 g | -0.1 | -0.8 | -0.1 |
飽和脂肪酸 | g/100 g | -0.02 | -0.17 | -0.02 |
一価不飽和脂肪酸 | g/100 g | -0.02 | -0.19 | -0.02 |
多価不飽和脂肪酸 | g/100 g | -0.05 | -0.41 | -0.05 |
コレステロール | mg/100 g | 0 | 0 | 0 |
炭水化物 | g/100 g | 14.3 | 75.3 | 19.4 |
利用可能炭水化物(単糖当量) | g/100 g | 11 | -62.7 | - |
水溶性食物繊維 | g/100 g | 0.7 | 3.4 | 0.6 |
不溶性食物繊維 | g/100 g | 1.2 | 7.3 | 0.6 |
食物繊維総量 | g/100 g | 1.9 | 10.7 | 1.2 |
灰 分 | g/100 g | 0.4 | 2.5 | 0.3 |
ナトリウム | mg/100 g | 2 | 93 | 8 |
カリウム | mg/100 g | 170 | 840 | 110 |
カルシウム | mg/100 g | 26 | 190 | 30 |
マグネシウム | mg/100 g | 14 | 67 | 8 |
リン | mg/100 g | 16 | 75 | 13 |
鉄 | mg/100 g | 0.3 | 1.7 | 0.1 |
亜鉛 | mg/100 g | 0.2 | 0.6 | 0.1 |
銅 | mg/100 g | 0.06 | 0.31 | 0.03 |
マンガン | mg/100 g | 0.08 | 0.48 | 0.07 |
ヨウ素 | µg/100 g | 0 | - | - |
セレン | µg/100 g | 0 | - | - |
クロム | µg/100 g | Tr | - | - |
モリブデン | µg/100 g | 4 | - | - |
レチノール | µg/100 g | 0 | 0 | 0 |
α-カロテン | µg/100 g | 0 | 1 | - |
β-カロテン | µg/100 g | 15 | 34 | - |
β-クリプトキサンチン | µg/100 g | 6 | 25 | - |
β-カロテン当量 | µg/100 g | 18 | 46 | Tr |
レチノール活性当量 | µg/100 g | 1 | 4 | 0 |
ビタミンD | µg/100 g | 0 | 0 | 0 |
α-トコフェロール | mg/100 g | 0.4 | 0.6 | 0.2 |
β-トコフェロール | mg/100 g | Tr | Tr | 0 |
γ-トコフェロール | mg/100 g | 0.1 | 7.5 | 0 |
δ-トコフェロール | mg/100 g | 0 | 0.2 | 0 |
ビタミンK | µg/100 g | 0 | 0 | 0 |
ビタミンB1 | mg/100 g | 0.03 | 0.1 | 0.02 |
ビタミンB2 | mg/100 g | 0.03 | 0.06 | 0.02 |
ナイアシン | mg/100 g | 0.2 | 0.7 | 0.1 |
ビタミンB6 | mg/100 g | 0.07 | 0.23 | 0.05 |
ビタミンB12 | µg/100 g | 0 | 0 | 0 |
葉酸 | µg/100 g | 22 | 10 | 10 |
パントテン酸 | mg/100 g | 0.23 | 0.36 | 0 |
ビオチン | µg/100 g | 0.4 | - | - |
ビタミンC | mg/100 g | 2 | 0 | 0 |
食塩相当量 | g/100 g | 0 | 0.2 | 0 |
アルコール | g/100 g | - | - | - |
硝酸イオン | g/100 g | - | - | - |
テオブロミン | g/100 g | - | - | - |
カフェイン | g/100 g | - | - | - |
タンニン | g/100 g | - | - | - |
ポリフェノール | g/100 g | - | - | - |
酢酸 | g/100 g | - | - | - |
調理油 | g/100 g | - | - | - |
有機酸 | g/100 g | 0.1 | - | - |
重量変化率 | % | - | - | - |
レチノール当量(μg)=レチノール(μg)+1/12β-カロテン当量(μg)
Tr(trace) :微量含まれているが、成分の記載限度に達していないもの。
(0):測定されていないが、文献等により含まれていないと推定されるもの。
-:未測定
出典:日本食品標準成分表2015年版(七訂)
いちじくの効果・効能
いちじくに含まれる栄養素が持つ効果・効能・働きを解説します。
フィシン:胃もたれ予防
いちじくには、タンパク質を分解する酵素であるフィシンが含まれています。
フィシンは、タンパク質を分解して消化させやすくする働きがあり、胃の負担を軽減したり、胃もたれを予防・改善したり、胃の炎症を予防したりする効果があります。
カリウム:血圧を下げる・むくみを解消する
いちじくにはカリウムが豊富に含まれています。カリウムは人体に必須のミネラルの一種です。
カリウムを摂取することで、細胞の浸透圧を調整して血圧を下げる、血流を改善して体内にある過剰なナトリウム(水分)を排出しむくみを解消する、といった効果が期待できます。
食物繊維:便秘の予防・解消
いちじくは、不溶性食物繊維とペクチンなどの水溶性食物繊維を両方含んでいます。
不溶性食物繊維は胃や腸で水分を吸収して便のカサを増やし、腸を刺激することで腸のぜん動運動を促します。水溶性食物繊維は便を柔らかくしたり、善玉菌のエサとなって腸内環境を整えたりして、便秘の予防・解消を助けます。
なお不溶性食物繊維と水溶性食物繊維のバランスは「不溶性:水溶性=2:1」が理想的とされており、いちじくに含まれる食物繊維はこのバランスを満たしています。
葉酸:胎児の発育リスクを軽減
いちじくに豊富に含まれる葉酸は、水溶性のビタミンで、エネルギー代謝を促すビタミンB群の一種でもあります。
葉酸を十分に摂取することで、DNAの形成に関わる物質であるSAMが増え、神経管閉鎖障害などの胎児の発育リスクを予防することができます。
また、葉酸には心不全や心筋梗塞、脳梗塞、認知症などのリスクとなるホモシステインの代謝にも関わっており、これらの病気を予防する効果もあります。
ポリフェノール:アンチエイジング効果
いちじくにはエラグ酸やルチンなどのポリフェノールが含まれ、また果皮や果肉の赤い部分には、色素成分であるアントシアニンなどのポリフェノールも含まれるなど、複数のポリフェノールを含んでいます。
ポリフェノールには強い抗酸化作用があり、老化の原因となる活性酸素を除去して肌や粘膜を若々しく保つ、がんや糖尿病など生活習慣病を予防する、などの効果が期待できます。
フィトエストロゲン:ホルモンバランスを整える
いちじくには、女性ホルモンのエストロゲンと同じような働きをする「フィトエストロゲン(植物性エストロゲン)」という成分が含まれています。
フィトエストロゲンは乱れやすいホルモンバランスを整えたり、生理痛や更年期障害の症状を緩和したりする効果があります。
いちじくの食べ方
いちじくの栄養素を損なわない食べ方などを解説します。
いちじくの皮の剥き方
いちじくの皮には細かい毛がありますが、皮は柔らかく毒性もないため、塩で表面をこすればそのまま食べることができます。
それでも皮が気になったり、ケーキなど調理に不要で皮を剥きたい場合は、まずいちじくのヘタの部分を反っている方向と逆に折ります。バナナの皮を剥くように、そのままヘタを持って下にゆっくり引っ張って剥きましょう。
このとき勢いよくと皮を剥くと、果肉が一緒についてきてしまうので注意してください。
いちじくを食べる際の注意点
いちじくの皮の間には、食物繊維などの栄養素が豊富に含まれています。そのため栄養素をより多く摂取するためには、皮をむかずに食べる方が良いでしょう。
ただし、食物繊維は過剰に摂取すると下痢を引き起こすほか、消化不良によって腹痛や便秘を引き起こす可能性があります。
生のいちじくの1日あたりの摂取量目安は、370g(4〜5個)です。体にいいからと食べ過ぎず、摂取目安量を守るようにしましょう。
いちじくの保存方法
いちじくの栄養素を損なわない保存方法を解説します。
常温保存:当日中、保存には不向き
いちじくは果皮が柔らかく、傷つきやすい果実のため、常温保存には向いていません。当日中に食べられない場合は、すぐに冷蔵か冷凍保存するようにしましょう。
冷蔵保存:保存期間は約3日
冷蔵保存する際は、いちじくをキッチンペーパーで1個ずつ包み、2〜3個まとめてポリ袋に入れます。袋の口を閉じて冷蔵庫へ入れれば、およそ3日程度保存が可能です。
冷凍保存:保存期間は約1ヶ月
いちじくを水洗いし、キッチンペーパーで優しく水気を拭き取ります。1個ずつラップで包み、冷凍用保存袋に入れて口を閉じてください。袋を金属製バットの上に置いて冷凍庫で保存します。
食材の冷凍に時間がかかると、その分細胞は壊れ、おいしさや栄養を損なってしまいます。金属製バットは熱伝導が早いため、より早く食材を凍らせることができます。
解凍の方法
冷凍したいちじくを解凍する際は、まずいちじくのおしりの部分に包丁で十字の切れ目を入れます。その切れ目に流水を5秒ほどあて、皮を剥きます。その後は5分ほど常温でおいて、外側から少しずつ溶かしていき、食べやすい大きさにカットします。