さやいんげんの栄養と効果効能・調理法・保存法
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さやいんげんの旬や原産地、主要な品種などの基本情報、似た食品との違い、さやいんげんに含まれる栄養とその効果効能、栄養素を損なわない調理法や保存法などを紹介します。
さやいんげんとは
さやいんげん(Green beans)はマメ科の植物で、未成熟のいんげんを指します。完熟していない状態のさやいんげんは、さやが柔らかく、さやごと食べられるのが特徴です。いんげんを完熟させてさやを取ったものを、いんげん豆と呼びます。
さやいんげんの旬は、6~7月です。沖縄などの暖かい地域やハウス栽培では、一年中栽培していることもあります。千葉県や福島県、鹿児島県、北海道で栽培されることの多い野菜です。
いんげんの原産地は、アメリカ大陸です。大航海時代に、コロンブスによってヨーロッパに持ち込まれ、栽培されるようになりました。土地を選ばず容易に栽培できることから、ヨーロッパ中に広まり、ヨーロッパでは現在も食卓に欠かせない食材です。
特にフランスでは、未成熟のいんげんをさやごと食べることが好まれており、さやの柔らかい品種に改良されるきっかけとなりました。そのため、さやいんげんをFrench beanと呼ぶこともあります。
日本にいんげんが伝わったのは、17世紀後半と考えられています。ヨーロッパで広まったいんげんは、中国大陸から日本に入ってきました。いんげんの由来は、中国から日本に持ち込んだとされる隠元禅師が語源とされています。
しかし当時の書には、いんげんとは異なる特徴が書かれていました。このことから、隠元が持ち込んだのはいんげんではなく、ふじ豆の一種だったのではないかとも考えられています。いんげんを持ち込んだ人物は不明ですが、隠元禅師が日本を訪れたのと同じ時期に持ち込まれたことは間違いありません。
いんげん豆・えんどう豆・ふじ豆・ささげの違い
さやいんげんと混同しやすいマメ科の植物に、いんげん豆・えんどう豆・ふじ豆・ささげがあります。
いんげん豆
いんげん豆とは、一般的にいんげんのさやをとったものを指します。さやいんげんとは異なり、完熟したさやは硬く食べられないため、豆をとりだしていんげん豆として食べます。
えんどう豆
えんどう豆は、地中海が原産地のマメ科の植物です。いんげんと同様に、可食部により名前が異なります。さやごと食べられる種類を絹さやえんどう・スナップえんどう、さやを取り除いて食べるものはグリンピースと呼ばれます。
ふじ豆
ふじ豆はつる性の植物です。関西ではふじ豆のことをいんげん豆と呼ぶ地域があり、同地域ではいんげん豆のことを三度豆と呼びます。ふじ豆は、さやいんげんよりも短く太いのが特徴です。
ささげ
ささげは、アフリカを原産地とするマメ科の植物です。日本に伝わったのは9世紀以前とされ、いんげんよりも歴史の古い野菜です。
若いささげは、いんげんと同様にさやごと食べられます。また、乾燥させた豆はあずき色をしており、小豆のように煮豆やぜんざい、赤飯に使えます。
さやいんげんの品種・種類
さやいんげんは、形や厚みの異なる複数の品種が流通しています。
どじょういんげん
どじょういんげんは、一般的にさやいんげんと呼ばれる品種です。見た目がどじょうの形に似ていることから名付けられ、尺五寸などとも呼ばれます。
サーベルいんげん
サーベルいんげんは、刀のサーベルのように先端がカーブしたさやいんげんです。どじょういんげんよりも色が濃く、筋が少ないのが特徴です。
モロッコいんげん
モロッコいんげんとは、モロッコのある地中海沿岸部を原産地とするさやいんげんです。どじょういんげんや、サーベルいんげんよりも平べったい形をしています。
筋が入りにくく、歯ごたえがよいのが特徴です。
さやいんげんに含まれる成分・栄養素
さやいんげん100gに含まれる成分・栄養素は下記表の通りです。
さやいんげんには、β-カロテンが豊富に含まれています。β-カロテンは、野菜の色素成分由来の緑黄色野菜に多く含まれる栄養素です。抗酸化作用があり、身体を健康に保つのに役立ちます。
さやいんげんは、ビタミンやミネラルも多く含んでおり、特にビタミンKやカリウムが豊富です。微量ミネラルと呼ばれるモリブデンやマンガンも含まれており、体内の健康を維持する働きをしています。
食品名 | 単位 | さやいんげん 若ざや 生 | さやいんげん 若ざや ゆで | いんげんまめ 全粒 乾 | いんげんまめ 全粒 ゆで |
廃 棄 率 | % | 3 | 0 | 0 | 0 |
エネルギー(kcal) | kcal/100 g | 23 | 26 | 333 | 143 |
エネルギー(kJ) | kJ/100 g | 96 | 109 | 1393 | 598 |
水 分 | g/100 g | 92.2 | 91.7 | 16.5 | 64.3 |
たんぱく質 | g/100 g | 1.8 | 1.8 | 19.9 | 8.5 |
アミノ酸組成によるたんぱく質 | g/100 g | 1.2 | -1.2 | 15.6 | -6.7 |
脂 質 | g/100 g | 0.1 | 0.2 | 2.2 | 1 |
トリアシルグリセロール当量 | g/100 g | -0.1 | -0.2 | 1.3 | -0.6 |
飽和脂肪酸 | g/100 g | -0.02 | -0.04 | 0.25 | -0.11 |
一価不飽和脂肪酸 | g/100 g | (Tr) | -0.01 | 0.19 | -0.08 |
多価不飽和脂肪酸 | g/100 g | -0.05 | -0.1 | 0.79 | -0.36 |
コレステロール | mg/100 g | Tr | Tr | 0 | 0 |
炭水化物 | g/100 g | 5.1 | 5.5 | 57.8 | 24.8 |
利用可能炭水化物(単糖当量) | g/100 g | 2.2 | -2.4 | 41.2 | 16.9 |
水溶性食物繊維 | g/100 g | 0.3 | 0.6 | 3.3 | 1.5 |
不溶性食物繊維 | g/100 g | 2.1 | 2 | 16 | 11.8 |
食物繊維総量 | g/100 g | 2.4 | 2.6 | 19.3 | 13.3 |
灰 分 | g/100 g | 0.8 | 0.8 | 3.6 | 1.4 |
ナトリウム | mg/100 g | 1 | 1 | 1 | Tr |
カリウム | mg/100 g | 260 | 270 | 1500 | 470 |
カルシウム | mg/100 g | 48 | 57 | 130 | 60 |
マグネシウム | mg/100 g | 23 | 22 | 150 | 47 |
リン | mg/100 g | 41 | 43 | 400 | 150 |
鉄 | mg/100 g | 0.7 | 0.7 | 6 | 2 |
亜鉛 | mg/100 g | 0.3 | 0.3 | 2.5 | 1.1 |
銅 | mg/100 g | 0.06 | 0.06 | 0.75 | 0.32 |
マンガン | mg/100 g | 0.33 | 0.34 | 1.9 | 0.84 |
ヨウ素 | µg/100 g | 0 | - | 0 | 0 |
セレン | µg/100 g | Tr | - | 1 | Tr |
クロム | µg/100 g | 1 | - | 3 | Tr |
モリブデン | µg/100 g | 34 | - | 110 | 27 |
レチノール | µg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 |
α-カロテン | µg/100 g | 140 | 150 | - | - |
β-カロテン | µg/100 g | 520 | 500 | - | - |
β-クリプトキサンチン | µg/100 g | 0 | 0 | - | - |
β-カロテン当量 | µg/100 g | 590 | 580 | 12 | Tr |
レチノール活性当量 | µg/100 g | 49 | 48 | 1 | 0 |
ビタミンD | µg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 |
α-トコフェロール | mg/100 g | 0.2 | 0.2 | 0.1 | 0 |
β-トコフェロール | mg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 |
γ-トコフェロール | mg/100 g | 0.4 | 0.4 | 2 | 1.3 |
δ-トコフェロール | mg/100 g | 0 | 0 | 0.1 | 0.1 |
ビタミンK | µg/100 g | 60 | 51 | 8 | 3 |
ビタミンB1 | mg/100 g | 0.06 | 0.06 | 0.5 | 0.18 |
ビタミンB2 | mg/100 g | 0.11 | 0.1 | 0.2 | 0.08 |
ナイアシン | mg/100 g | 0.6 | 0.5 | 2 | 0.6 |
ビタミンB6 | mg/100 g | 0.07 | 0.07 | 0.36 | 0.09 |
ビタミンB12 | µg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 |
葉酸 | µg/100 g | 50 | 53 | 85 | 33 |
パントテン酸 | mg/100 g | 0.17 | 0.16 | 0.63 | 0.14 |
ビオチン | µg/100 g | 3.9 | - | 9.4 | 3.8 |
ビタミンC | mg/100 g | 8 | 6 | Tr | Tr |
食塩相当量 | g/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 |
アルコール | g/100 g | - | - | - | - |
硝酸イオン | g/100 g | Tr | Tr | - | - |
テオブロミン | g/100 g | - | - | - | - |
カフェイン | g/100 g | - | - | - | - |
タンニン | g/100 g | - | - | - | - |
ポリフェノール | g/100 g | - | - | - | - |
酢酸 | g/100 g | - | - | - | - |
調理油 | g/100 g | - | - | - | - |
有機酸 | g/100 g | 0.3 | - | - | - |
重量変化率 | % | - | 94 | - | 220 |
レチノール当量(μg)=レチノール(μg)+1/12β-カロテン当量(μg)
Tr(trace) :微量含まれているが、成分の記載限度に達していないもの。
(0):測定されていないが、文献等により含まれていないと推定されるもの。
-:未測定
出典:日本食品標準成分表2015年版(七訂)
さやいんげんの効果・効能
さやいんげんに含まれる栄養素が持つ効果・効能・働きを解説します。
老化予防に効果的なβ-カロテン
β-カロテンは、野菜の色素成分であるカロテノイドの一種です。β-カロテンには抗酸化作用があり、体内で発生した不要な活性酵素を除去する働きがあります。老廃物が貯まると老化が進みやすくなるため、抗酸化作用のあるβ-カロテンは老化予防に効果的です。
β-カロテンは、ビタミンAの前駆体であるプロビタミンAとも呼ばれており、皮膚を健康に保ち免疫機能の正常化に役立ちます。
β-カロテンの効果・1日の摂取目安量・多く含む食品・効率よく摂取する方法|NANIWA SUPLI MEDIA
むくみを解消するカリウム
カリウムは、体内で血圧調整に作用するミネラルの一種です。ナトリウムと相互作用があり、血圧を正常に保っています。
下肢に水が溜まって起こるむくみは、体内の水分を排出することで予防できます。体内の水分量を調節する作用にカリウムがかかわっているため、カリウムを多く含む食材はむくみの解消に効果的です。
カリウムの効果効能・1日の摂取目安量・多く含む食品・効率よく摂取する方法|NANIWA SUPLI MEDIA
体内を健康に保つモリブデン
モリブデンは、体内で産生することのできない微量ミネラルの一種です。金属元素の一つで、体内で産生された有害物質を無害化したり、体外に排出したりする役割を持っています。
体内に有害物質がたまると、臓器や神経系に異常が出ることもあり、体調不良につながります。そのため、モリブデンは身体を健康に保つために必要な栄養素です。体内では産生できないため、食べ物として摂取する必要があります。
モリブデンの効果・1日の摂取目安量・多く含む食品・効率よく摂取する方法|NANIWA SUPLI MEDIA
さやいんげんの食べ方
さやいんげんの栄養素を損なわない下ごしらえの方法・調理方法・食べ方などを解説します。
さやいんげんのヘタ・筋の取り方
さやいんげんの中には、筋が硬く調理前に取り除く必要があるものもあります。さやいんげんのヘタの部分を折ると、ヘタに糸状の筋がくっついてきます。筋が太く取り除く必要がある場合は、ヘタを取ったときに一緒に筋も取っておきましょう。ヘタ側だけでなく、お尻側からも筋を取る必要があります。
ヘタを折っても筋が付いてこなければ、筋が柔らかいタイプのさやいんげんです。その場合は、ヘタだけ取ってそのまま調理に使えます。
さやいんげんの調理前は必ず下茹でをする
さやいんげんは、生のままでは中毒を起こす可能性があるため、サラダなどに使うときは下茹でが必要です。さやいんげんの下茹では、鍋で塩茹でする方法とレンジで熱をとおす方法があります。
さやいんげんを鍋で下茹でするときは、水に対して2%の塩を入れて沸騰させます。茹で時間は3分程度です。長時間茹でてしまうと、食感や色が悪くなるので注意が必要です。
茹で上がったらすぐに冷水にさらして熱を取りましょう。茹でた後に放置すると、色が悪くなってしまいます。
レンジで下ごしらえをする方法
さやいんげんをレンジで加熱するときは、水で濡らしてからラップに包みましょう。電子レンジで2分弱加熱して、茹でたときと同様に冷水にさらします。ラップに包んだままにすると、熱が冷めずに色が悪くなるので注意しましょう。
さやいんげんを鍋で下ごしらえすると、お湯に栄養素が流れ出てしまいます。そのため、レンジで下ごしらえをする方が、栄養素を損なわずに下処理できます。
さやいんげんのおすすめの食べ方
さやいんげんは、食感を活かした食べ方がおすすめです。
胡麻和えやマヨネーズ和えなら手軽にできますし、加熱処理が少ないため、さやいんげんの栄養素を損ないにくいのも魅力。胡麻和えやマヨネーズ和えにツナ缶をプラスすると、味が絡みやすくなり簡単なアレンジにもなります。
下茹でしたさやえんどうは、マヨネーズと味噌を添えるだけでも一品として食卓に出せます。バターで炒めるだけでも、メイン料理の添え物として使えます。
生のさやいんげんで起こるレクチン中毒に注意
さやいんげんには、レクチンと呼ばれるタンパク質の一種が含まれています。レクチンは、毒性が強く、大量に摂取すると腹痛や嘔吐、下痢などの中毒症状を起こすことが知られています。
熱に弱いレクチンは、さやいんげんを加熱することで無効化されます。そのため、十分に加熱されたさやいんげんは問題ありません。
さやいんげんの保存方法
さやいんげんの栄養素を損なわない保存方法を解説します。
茹でる前の保存方法
生のさやいんげんは、新聞紙に包んでビニール袋に入れて冷蔵庫の野菜室で保存します。袋の口をしっかりと縛ることで、1週間程度の保存が可能です。
ただし、生のままで保存すると、さやいんげんに含まれる酵素が損なわれやすくなります。そのため、下茹でしたものを冷凍保存するのがおすすめです。
茹でたあとの保存方法
下茹でしたさやいんげんは、粗熱をとったあとに水分を拭き取り、密閉できる容器・袋に入れます。冷凍庫で保存すると、1ヶ月程度は鮮度を保てます。
冷凍保存するときは、下茹で時間を1分程度と硬めに茹でましょう。硬めに茹でることで、さやえんどうの色や鮮度を保ったまま保存できます。