玄米の栄養と効果効能・調理法・保存法
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玄米の旬や原産地、主要な品種などの基本情報、玄米に含まれる栄養とその効果効能、栄養素を損なわない調理法や保存法などを紹介します。
玄米とは
玄米は精米前の米のことで、籾(もみ)から籾殻(もみがら)だけを取り除いた状態です。見た目が茶色いのが特徴で、英語では「brown rice」と表記されます。この茶色い薄皮は糠層と呼ばれ、その下に果皮や種皮、でんぷん、胚芽が存在します。
玄米からさらに糠層や胚芽などをすべて取り除き、胚乳だけの状態にしたものが白米です。糠層や胚芽にはミネラルやビタミンなどがたっぷり含まれているため、玄米は白米よりも栄養価が高い傾向にあります。
玄米の原産地は、中国という説が濃厚です。日本で稲作が始まったとされるのは縄文時代の終わりで、本格的に食されるようになったのは弥生時代と言われています。
ただし、当時は杵と臼を使い精米に近い作業をしていたため、玄米というより糠が少し残る分づき(ぶづき)米を食べていました。今でいう玄米とは厳密にいうと異なります。
江戸時代に入ると精米技術が発達し、江戸を中心に白米を食べる習慣が広まりましたが、同時に脚気(かっけ)という病気が流行りだしました。原因はビタミンB1の欠乏で、脚のしびれやむくみなどの症状が出ます。
当時は一汁一菜だったこともあり、玄米に含まれる糠層は貴重な栄養源だったということでしょう。
玄米の品種・種類
通常の玄米と異なるものとして、発芽玄米があります。発芽玄米は、玄米の状態から胚芽をわずかに発芽させたお米です。
発芽の際に酵素が活性化するため、特にGABA(ギャバ)が増加すると言われています。また、玄米よりも糠層が柔らかくなり食べやすいのもメリットです。玄米よりさらに栄養が豊富で、健康食として改めて注目を浴びています。
玄米を使った加工品
玄米は白米のように主食として食べる製品だけでなく、加工方法によっていくつかに分類されますので紹介していきましょう。
玄米粉
玄米粉は、玄米を粉状に加工した製品です。小麦粉の代用品として、パンやお菓子、揚げ物など幅広く使えます。玄米は白米と比較すると固く、しっかり咀嚼しないと胃腸に負担がかかるので、消化しやすい玄米粉で効率よく栄養を摂取するのも手です。
玄米茶
水で浸した後に蒸した玄米を炒り、煎茶や番茶などと合わせたものが玄米茶です。香ばしい香りと風味が特徴で、カフェインも少ないことから子どもやお年寄りにも適しています。
玄米に含まれる成分・栄養素
玄米100gに含まれる成分・栄養素は下記表の通りです。
玄米にはビタミンやミネラルを始めとして、食物繊維やたんぱく質、脂質などが豊富に含まれています。特に食物繊維量とビタミンの多さは顕著で、白米よりも栄養価が高いと言われる由縁です。
玄米には健康を維持するために必要とされる栄養素がバランスよく含まれているため、完全栄養食とも呼ばれています。
成分の値を比べてみると、玄米と玄米粉では栄養素の含有量がほぼ変わらないことが確認できるため、玄米を取り入れるのが難しい場合は玄米粉などの加工品を使用するのもよいでしょう。
食品名 | 単位 | 玄米 | 発芽玄米 | 玄米(全かゆ) | 玄米(五分がゆ) | 玄米(おもゆ) | 玄米粉 | 玄米茶 |
エネルギー(kcal) | kcal/100 g | 353 | 356 | 70 | 35 | 20 | 395 | 0 |
エネルギー(kJ) | kJ/100 g | 1476 | 1488 | 293 | 146 | 84 | 1655 | 0 |
水 分 | g/100 g | 14.9 | 14.9 | 83 | 91.5 | 95 | 4.6 | 99.9 |
たんぱく質 | g/100 g | 6.8 | 6.5 | 1.2 | 0.6 | 0.4 | 7.1 | 0 |
アミノ酸組成によるたんぱく質 | g/100 g | 5.9 | 5.4 | -1 | -0.5 | -0.3 | 5.3 | - |
脂 質 | g/100 g | 2.7 | 3.3 | 0.4 | 0.2 | 0.1 | 2.9 | 0 |
トリアシルグリセロール当量 | g/100 g | 2.5 | 2.8 | -0.4 | -0.2 | -0.1 | 2.5 | - |
飽和脂肪酸 | g/100 g | 0.62 | 0.7 | -0.09 | -0.05 | -0.02 | 0.67 | - |
一価不飽和脂肪酸 | g/100 g | 0.83 | 1.01 | -0.12 | -0.06 | -0.03 | 0.91 | - |
多価不飽和脂肪酸 | g/100 g | 0.9 | 0.95 | -0.13 | -0.07 | -0.03 | 0.85 | - |
コレステロール | mg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
炭水化物 | g/100 g | 74.3 | 74.3 | 15.2 | 7.6 | 4.4 | 84.1 | 0 |
利用可能炭水化物(単糖当量) | g/100 g | 78.4 | 76.2 | -14.9 | -7.5 | -4.4 | 84.8 | - |
水溶性食物繊維 | g/100 g | 0.7 | 0.5 | 0.1 | Tr | Tr | 0.6 | 0 |
不溶性食物繊維 | g/100 g | 2.3 | 2.6 | 0.5 | 0.3 | 0.2 | 2.9 | 0 |
食物繊維総量 | g/100 g | 3 | 3.1 | 0.6 | 0.3 | 0.2 | 3.5 | 0 |
灰 分 | g/100 g | 1.2 | 1.1 | 0.2 | 0.1 | 0.1 | 1.3 | 0.1 |
ナトリウム | mg/100 g | 1 | 3 | 1 | Tr | Tr | 3 | 2 |
カリウム | mg/100 g | 230 | 160 | 41 | 20 | 12 | 230 | 7 |
カルシウム | mg/100 g | 9 | 13 | 3 | 1 | 1 | 12 | 2 |
マグネシウム | mg/100 g | 110 | 120 | 21 | 10 | 6 | 110 | 1 |
リン | mg/100 g | 290 | 280 | 55 | 28 | 16 | 290 | 1 |
鉄 | mg/100 g | 2.1 | 1 | 0.2 | 0.1 | 0.1 | 1.4 | Tr |
亜鉛 | mg/100 g | 1.8 | 1.9 | 0.3 | 0.2 | 0.1 | 2.4 | Tr |
銅 | mg/100 g | 0.27 | 0.23 | 0.05 | 0.03 | 0.01 | 0.3 | 0.01 |
マンガン | mg/100 g | 2.06 | 2.07 | 0.44 | 0.22 | 0.13 | 2.49 | 0.15 |
ヨウ素 | µg/100 g | Tr | - | - | - | - | 1 | - |
セレン | µg/100 g | 3 | - | - | - | - | 2 | - |
クロム | µg/100 g | 0 | - | - | - | - | 6 | - |
モリブデン | µg/100 g | 64 | - | - | - | - | 120 | - |
レチノール | µg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
α-カロテン | µg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
β-カロテン | µg/100 g | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
β-クリプトキサンチン | µg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
β-カロテン当量 | µg/100 g | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
レチノール活性当量 | µg/100 g | Tr | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
ビタミンD | µg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | - | 0 |
α-トコフェロール | mg/100 g | 1.2 | 1.2 | 0 | 0 | 0 | 1.2 | 0 |
β-トコフェロール | mg/100 g | 0.1 | 0.1 | 0 | 0 | 0 | Tr | 0 |
γ-トコフェロール | mg/100 g | 0.1 | 0.2 | 0 | 0 | 0 | 0.1 | 0 |
δ-トコフェロール | mg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
ビタミンK | µg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
ビタミンB1 | mg/100 g | 0.41 | 0.35 | 0.07 | 0.03 | 0.02 | 0 | 0 |
ビタミンB2 | mg/100 g | 0.04 | 0.02 | 0.01 | Tr | Tr | 0.03 | 0.01 |
ナイアシン | mg/100 g | 6.3 | 4.9 | 1.2 | 0.6 | 0.4 | 4.6 | 0.1 |
ビタミンB6 | mg/100 g | 0.45 | 0.34 | 0.09 | 0.05 | 0.03 | 0.08 | 0.01 |
ビタミンB12 | µg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
葉酸 | µg/100 g | 27 | 18 | 4 | 2 | 1 | 9 | 3 |
パントテン酸 | mg/100 g | 1.37 | 0.75 | 0.28 | 0.14 | 0.08 | 0.12 | 0 |
ビオチン | µg/100 g | 6 | - | - | - | - | 5.1 | - |
ビタミンC | mg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 |
食塩相当量 | g/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
アルコール | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
硝酸イオン | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
テオブロミン | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
カフェイン | g/100 g | - | - | - | - | - | - | 0.01 |
タンニン | g/100 g | - | - | - | - | - | - | 0.01 |
ポリフェノール | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
酢酸 | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
調理油 | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
有機酸 | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
重量変化率 | % | - | - | 500 | 1000 | 1700 | - | - |
備考 | うるち米 | うるち米試料: ビタミンB1強化品含む | うるち米5倍かゆ玄米20 g相当量を含む | うるち米10倍かゆ玄米10 g相当量を含む | うるち米弱火で加熱、ガーゼでこしたもの玄米6 g相当量を含む | 焙煎あり | 浸出法: 茶 15 g/90 °C 650 mL、0.5分 |
レチノール当量(μg)=レチノール(μg)+1/12β-カロテン当量(μg)
Tr(trace) :微量含まれているが、成分の記載限度に達していないもの。
(0):測定されていないが、文献等により含まれていないと推定されるもの。
-:未測定
出典:日本食品標準成分表2015年版(七訂)
玄米の効果・効能
玄米に含まれる栄養素が持つ効果・効能・働きを解説します。
食物繊維はダイエットにも
玄米の食物繊維量は、白米のおよそ4~6倍。腸のぜん動運動を促し、便のかさにもなる食物繊維は、便秘の解消にも効果が期待できる栄養素です。
また、不溶性食物繊維の多い玄米は噛み応えがあるため、無意識に咀嚼回数が増え、満腹中枢を刺激します。これらの効果から、白米と比べてダイエットに向いている食材と言えるでしょう。
ビタミンB群が代謝促進
白米に比べビタミンが豊富な玄米ですが、特にビタミンB1やパントテン酸などのビタミンB群が豊富です。
ビタミンB群は体内の代謝を助けるため、炭水化物をエネルギーとして利用するために欠かせません。特にビタミンB1の欠乏で起こる脚気は、糖の代謝不足が原因です。
不足しがちなミネラルを補給
玄米にはカリウムやマグネシウム、リンなどのミネラルが多く含まれています。ミネラルは互いに影響を受けながら吸収されるため、バランスよく摂取する必要のある栄養素です。
特にカリウムはナトリウムの排出を促すので、塩分の摂りすぎを防いでくれます。実際に高血圧症のラットに発芽玄米を摂取させたところ、血圧の上昇が抑えられたという実験結果もありました。
食べすぎを抑制するγ‐オリザノール
玄米にはγ‐オリザノールと呼ばれるポリフェノールの一種が含まれています。γ-オリザノールが注目される理由は、脳へのストレスを軽減し食欲を抑える作用があるためです。
2012年に沖縄琉球大学医学部で非常に興味深い研究結果が出ました。脂の多い高脂肪食を与えられたマウスは脳の視床下部で小胞体ストレスが発生し、食欲を抑制するレプチンというホルモンが出にくくなります。
しかし、その状態のマウスに玄米食を与えたところ、血中のレプチン値が上昇。さらには高脂肪食ではなく、通常食を食すようになるなど食の好みに変化が生じたと言います。
低GI値で糖の吸収を穏やかに
GI(グリセミックインデックス)とは、食後における血糖値の上昇度合を表す指標です。一般的に穀物は、ほかの食品類に比べ糖質が高い分GI値も高い傾向にあり、高GI値食品と言われます。
「食事は低GI値の野菜から」と言われるのは、空腹時にGI値が高いものから食べ始めると血糖値が急激に上昇してしまうためです。
しかし、同じ穀物のなかでも玄米は低GI値の食品として注目されています。2013年におこなわれた世界糖尿病学会では、白米食より玄米食を摂取したグループのほうが空腹時のインスリン値と24時間血糖値の低下したという研究結果が報告されました。
GABAで睡眠の質向上
発芽玄米に多く含まれるGABA(ギャバ)には、ストレスを抑制するリラックス作用が期待できます。
GABAは脳の中枢神経系に存在するアミノ酸の一種です。実際に精神状態が不安定な人や、神経系の病気を患っている人は脳髄液中のGABA濃度が低いことがわかっています。
ある実験では、GABAを経口摂取した際に交感神経は変わらず、副交感神経活動の増加が見られました。副交感神経は心身を休息状態に導いてくれるため、安眠効果にも期待できます。
玄米の食べ方
玄米の栄養素を損なわない洗い方・調理方法・食べ方などを解説します。
玄米の洗い方
玄米は汚れを落とすようなイメージで、2~3回洗うだけで十分です。通常の精米のようにとぎ汁は白く濁りません。
さらに玄米は種皮がある分、水の浸透に時間がかかります。水温の高い夏でも最低は半日、水温の低くなる冬場は1日水に浸けておくのが理想です。
玄米は炊いても少し硬いため、炊くときは白米の水加減よりも少し多めに水を入れましょう。玄米独特の臭いが気になる方は、1合あたりに塩をひとつまみ加えて炊くのがおすすめです。
玄米の調理方法や食べ方
玄米は炊いて食べるのが一般的です。そのまま炊くのもよいですが、玄米独特の風味が苦手な人は具材と調味料を入れて炊き込みご飯にしてみてください。白米と混ぜて炊く方法もおすすめです。
炊飯器の「玄米モード」がある場合は、初めてでもふっくらとした仕上がりになりますよ。
玄米を調理する際の注意点
玄米は精米されていないため、農薬が残りやすいと言われています。残留農薬が気になる方は、農薬未使用の玄米を選ぶとよいでしょう。
また、玄米にはアブシジン酸という物質が含まれており、若干の毒性があります。同成分は水で活性化を防げるため、炊く前によく水に浸すことが重要です。
玄米を食べる際の注意点
完全栄養食とも言われるほど栄養価の高い玄米ですが、フィチン酸という栄養素には注意が必要です。穀物や豆類の皮に含まれるフィチン酸は、ミネラル類と結合し対外へ排出する作用があります。
ミネラルの多い食品や、ミネラルの吸収を高めてくれるビタミンCの多い野菜などをおかずにして、一緒に食べるとよいでしょう。
玄米の保存方法
玄米の栄養素を損なわない保存方法を解説します。
玄米は密閉させ低温で保存するのが正解です。空気に触れると酸化が進み、高温多湿の場所ではカビや虫が発生する心配があります。
15度を超えると味も風味も落ちてしまうため、密閉容器などに入れ10度以下の冷暗所においてください。冷蔵庫の野菜室でも構いません。
においが移りやすいため、香りの強い食材とは離して保存するとなおよいでしょう。
参考文献
- 食物繊維の必要性と健康|e-ヘルスネット
- カリウム|e-ヘルスネット
- ビタミン欠乏症|e-ヘルスネット
- ビタミン|e-ヘルスネット
- ミネラル|e-ヘルスネット
- NaClを添加した発芽玄米の高血圧自然発症ラット(SHR/Izm)の血圧上昇抑制効果と血糖調整に関連するホルモンへの影響|CiNii
- 糖尿病患者における食品の摂取順序による食後血糖上昇抑制効果|CiNii
- Brown Rice and Its Component, γ-Oryzanol, Attenuate the Preference for High-Fat Diet by Decreasing Hypothalamic Endoplasmic Reticulum Stress in Mice|NCBI
- 「玄米食 vs. 白米食」の比較試験、玄米食群で有意な血糖改善効果|日経メディカル
- GABA経口摂取による自律神経活動の活性化|J-stage