牛肉の栄養と効果効能・調理法・保存法
5426views
牛肉の旬や原産地、主要な品種などの基本情報、他の食肉との違い、牛肉に含まれる栄養とその効果効能、栄養素を損なわない調理法や保存法などを紹介します。
牛肉とは
牛肉(Beef)は、食用のウシの肉で、ビーフとも呼ばれます。豚肉・鶏肉と並んで日本でよく食べられている肉類です。
牛肉は世界中で古くから食用に利用されてきましたが、日本では明治時代の文明開化以降に食べられるようになった比較的新しい食材のひとつ。当時は高級品として扱われていましたが、安価な海外産牛肉が輸入されるようになり、身近な食材となりました。
一般的に、雌牛のほうが皮下脂肪が厚くキメも細かく、雄牛より味が良いと言われています。最も美味しく食べられる年齢は4~6歳です。
牛肉の等級は、A~Cの歩留(ぶどまり)等級と1~5の肉質等級で15等級に格付けされます。
歩留等級は1頭から取れる肉の量で決定され、肉質等級は脂肪交雑(霜降りの状態)・肉の色沢・肉の締まりとキメ・脂肪の色沢と質、の4つの基準で判断されます。最もランクが高いのはA5等級の牛肉です。
牛肉の品種・種類
現在日本で食べられている牛肉は、和牛・国産牛・輸入牛の3種類です。それぞれの概要および特徴を説明します。
和牛
和牛は、日本の在来種の牛をもとに作られた食肉用の牛のこと。和牛と呼べるのは、黒毛和種・褐毛和種・日本短角種・無角和種と、4品種間の交雑種のみです。和牛は、旨味とコクのあるサシ(霜降り)が入りやすく、肉質がきめ細かく柔らかいのが特徴です。
- 黒毛和種(くろげわしゅ):黒毛和種のなかでも、「黒毛和牛」が和牛の約9割を占めます。松坂牛・米沢牛なども黒毛和種です。和牛のなかでも特に霜降りになりやすい性質があり、きめが細かく柔らかな肉質です。
- 褐毛和種(あかげわしゅ):褐毛和種は、主に熊本県・高知県で飼育される赤毛の肉牛です。黒毛和種に似た肉質で、脂身と赤身のバランスが優れています。
- 日本短角種(にほんたんかくしゅ):日本短角種は、東北地方および北海道で飼育されている品種です。黒毛和種と比較するとサシが入りにくく赤身が多いため、アミノ酸などの栄養素を豊富に含んでいます。
- 無角和種(むかくわしゅ):無角和種は、山口県で飼育されている希少な肉牛です。脂肪分が少なくヘルシーで、和牛独特の肉の風味を味わえます。
国産牛
国産牛は、品種名ではなく日本で飼育・加工された牛肉のことで、乳牛用のホルスタイン種やその交雑種も国産牛に含まれます。
国産牛は、和牛と比較するとサシが入りにくく、淡白であっさりとした味わいの牛肉です。ダイエット中や健康志向の方に人気があります。
輸入牛
輸入牛は、外国で加工し輸入した牛肉です。輸入牛肉は、オーストラリア産およびアメリカ産のものが大半で、オージービーフやアメリカンビーフといった呼称で親しまれています。
輸入牛は、和牛や国産牛と比べると赤身が多く脂肪分が少ないため、脂質の摂取量を抑えたい方に向いています。
牛肉の部位
牛肉の主な部位とそれぞれの特徴は以下の通りです。栄養価の特徴は、和牛の主要品種である黒毛和種のデータに基づいて説明します。
牛肉の部位 | 特徴 |
肩ロース | 牛肉のロースは、肩ロース・リブロース・サーロインの3部位に分けられます。肩ロースは、肩から背中にかけての大きな部位です。ほどよくサシが入っており、さまざまな料理に合います。カロリーや脂質量はやや高めですが、生殖機能に関わる亜鉛などのミネラル類が多く含まれています。 |
リブロース | リブロースは、肩ロースと連結している部位です。霜降りになりやすく、きめ細かく柔らかな食感が楽しめます。主要な部位のなかでは最もカロリーが高く、脂質もたっぷりと含んでいるため、ダイエットには不向き。コレステロール値を低下させるオレイン酸などの不飽和脂肪酸が豊富です。 |
サーロイン | サーロインは、リブロースの隣にある腰に近い部分の肉です。脂身と赤身のバランスが良く、脂のコクと肉の旨味を同時に味わうことができます。柔らかい食感で、ステーキに最適な高級部位として知られています。 |
バラ | バラは、焼肉のカルビとして親しまれている部位で、肋骨に沿って付いています。脂乗りが良くジューシーなのが特徴で、前バラ・中バラ・外バラに分けられます。リブロースほどではないものの、高カロリーで脂質の多い部位です。 |
もも | ももは、お尻から後ろ足にかけての部位で、脂肪分が少ない赤身肉です。牛もも肉のカロリーや脂質はロースの半分以下なので、脂が苦手な方やダイエット中にもおすすめ。タンパク質が豊富で、筋トレ時の食事にも向いています。アミノ酸・ミネラル・ビタミンなどの栄養素が豊富に含まれています。 |
ランプ | ランプは、腰からお尻にかけての肉で、もも肉の一部です。もも肉のなかでは特に柔らかく食べやすい部位ですが、赤身主体であっさりとした味わいです。サーロインとつながっている部分なので、もも肉より脂がのっています。 |
ヒレ | サーロインの内側に位置するヒレは、牛肉のなかで最も柔らかいと言われる高級部位です。脂肪分や筋をほとんど含まないため赤身とは思えないソフトな食感で、高齢者や子供でも安心して食べられます。高タンパク・低脂質でダイエットに最適な部位であると共に、ビタミン・ミネラルなどの栄養素の含有量もトップクラス。価格は高めですが、健康志向の方におすすめです。 |
牛肉に含まれる成分・栄養素
牛肉100gに含まれる成分・栄養素は下記表の通りです。
食品名 | 単位 | かたロース 脂身つき 生 | リブロース 脂身つき 生 | サーロイン 脂身つき 生 | ばら 脂身つき 生 | もも 脂身つき 生 | ランプ 脂身つき 生 | ヒレ 赤肉 生 |
廃 棄 率 | % | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
エネルギー(kcal) | kcal/100 g | 411 | 573 | 498 | 517 | 259 | 347 | 223 |
エネルギー(kJ) | kJ/100 g | 1720 | 2397 | 2084 | 2163 | 1084 | 1452 | 933 |
水 分 | g/100 g | 47.9 | 34.5 | 40 | 38.4 | 61.2 | 53.8 | 64.6 |
たんぱく質 | g/100 g | 13.8 | 9.7 | 11.7 | 11 | 19.2 | 15.1 | 19.1 |
アミノ酸組成によるたんぱく質 | g/100 g | -11.8 | 8.2 | -10.2 | -9.6 | -16.2 | -13.2 | -16.6 |
脂 質 | g/100 g | 37.4 | 56.5 | 47.5 | 50 | 18.7 | 29.9 | 15 |
トリアシルグリセロール当量 | g/100 g | -35 | 53.4 | -44.4 | 45.6 | 16.8 | -27.5 | 13.8 |
飽和脂肪酸 | g/100 g | -12.19 | 19.81 | -16.29 | 15.54 | 6.01 | -9.71 | 5.79 |
一価不飽和脂肪酸 | g/100 g | -20.16 | 29.8 | -25.05 | 26.89 | 9.51 | -15.78 | 6.9 |
多価不飽和脂肪酸 | g/100 g | -1.06 | 1.39 | -1.12 | 1.12 | 0.54 | -0.76 | 0.49 |
コレステロール | mg/100 g | 89 | 86 | 86 | 98 | 75 | 81 | 66 |
炭水化物 | g/100 g | 0.2 | 0.1 | 0.3 | 0.1 | 0.5 | 0.4 | 0.3 |
利用可能炭水化物(単糖当量) | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
水溶性食物繊維 | g/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
不溶性食物繊維 | g/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
食物繊維総量 | g/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
灰 分 | g/100 g | 0.7 | 0.4 | 0.5 | 0.5 | 1 | 0.8 | 1 |
ナトリウム | mg/100 g | 42 | 39 | 32 | 44 | 45 | 40 | 40 |
カリウム | mg/100 g | 210 | 150 | 180 | 160 | 320 | 260 | 340 |
カルシウム | mg/100 g | 3 | 2 | 3 | 4 | 4 | 3 | 3 |
マグネシウム | mg/100 g | 14 | 10 | 12 | 10 | 22 | 17 | 22 |
リン | mg/100 g | 120 | 84 | 100 | 87 | 160 | 150 | 180 |
鉄 | mg/100 g | 0.7 | 1.2 | 0.9 | 1.4 | 2.5 | 1.4 | 2.5 |
亜鉛 | mg/100 g | 4.6 | 2.6 | 2.8 | 3 | 4 | 3.8 | 4.2 |
銅 | mg/100 g | 0.06 | 0.03 | 0.05 | 0.09 | 0.07 | 0.08 | 0.09 |
マンガン | mg/100 g | 0.01 | 0 | 0 | 0 | 0.01 | 0 | 0.01 |
ヨウ素 | µg/100 g | - | 1 | - | - | - | - | - |
セレン | µg/100 g | - | 8 | - | - | - | - | - |
クロム | µg/100 g | - | 0 | - | - | - | - | - |
モリブデン | µg/100 g | - | 1 | - | - | - | - | - |
レチノール | µg/100 g | 3 | 10 | 3 | 3 | Tr | 2 | 1 |
α-カロテン | µg/100 g | - | 0 | - | - | 0 | - | - |
β-カロテン | µg/100 g | - | 3 | - | - | 0 | - | - |
β-クリプトキサンチン | µg/100 g | - | - | - | - | 0 | - | - |
β-カロテン当量 | µg/100 g | 1 | 3 | 1 | Tr | 0 | 0 | Tr |
レチノール活性当量 | µg/100 g | 3 | 11 | 3 | 3 | Tr | 2 | 1 |
ビタミンD | µg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
α-トコフェロール | mg/100 g | 0.5 | 0.6 | 0.6 | 0.6 | 0.3 | 0.5 | 0.4 |
β-トコフェロール | mg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
γ-トコフェロール | mg/100 g | Tr | 0.1 | 0.1 | 0.1 | Tr | Tr | 0 |
δ-トコフェロール | mg/100 g | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
ビタミンK | µg/100 g | 8 | 8 | 10 | 16 | 6 | 10 | 4 |
ビタミンB1 | mg/100 g | 0.06 | 0.04 | 0.05 | 0.04 | 0.09 | 0.08 | 0.09 |
ビタミンB2 | mg/100 g | 0.17 | 0.09 | 0.12 | 0.11 | 0.2 | 0.19 | 0.24 |
ナイアシン | mg/100 g | 3.2 | 2.4 | 3.6 | 3.1 | 5.6 | 4.3 | 4.3 |
ビタミンB6 | mg/100 g | 0.18 | 0.15 | 0.23 | 0.16 | 0.34 | 0.33 | 0.37 |
ビタミンB12 | µg/100 g | 1.1 | 1.1 | 1.1 | 1.2 | 1.2 | 1.2 | 1.6 |
葉酸 | µg/100 g | 6 | 3 | 5 | 2 | 8 | 7 | 8 |
パントテン酸 | mg/100 g | 0.9 | 0.35 | 0.66 | 0.74 | 1.09 | 1.22 | 1.28 |
ビオチン | µg/100 g | - | 1.1 | - | - | - | - | - |
ビタミンC | mg/100 g | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 |
食塩相当量 | g/100 g | 0.1 | 0.1 | 0.1 | 0.1 | 0.1 | 0.1 | 0.1 |
アルコール | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
硝酸イオン | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
テオブロミン | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
カフェイン | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
タンニン | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
ポリフェノール | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
酢酸 | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
調理油 | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
有機酸 | g/100 g | - | - | - | - | - | - | - |
重量変化率 | % | - | - | - | - | - | - | - |
レチノール当量(μg)=レチノール(μg)+1/12β-カロテン当量(μg)
Tr(trace) :微量含まれているが、成分の記載限度に達していないもの。
(0):測定されていないが、文献等により含まれていないと推定されるもの。
-:未測定
出典:日本食品標準成分表2015年版(七訂)
牛肉の効果・効能
牛肉に含まれる栄養素が持つ効果・効能・働きを解説します。
健康な体を維持する良質なタンパク質
皮膚・内臓・筋肉・髪の毛などを構成するタンパク質は、人間の体の15~20%を占める重要な成分です。タンパク質には体の機能を調節する働きもあり、不足すると成長障害や免疫力の低下を引き起こします。
タンパク質を構成しているのは20種類のアミノ酸ですが、体内で十分に合成できない必須アミノ酸は食品から摂取する必要があります。牛肉には必須アミノ酸のバランスが優れた良質なタンパク質が多く含まれています。
特に牛肉に豊富なアミノ酸は、睡眠の質を高めるトリプトファンや、筋トレの効率を高めるロイシンです。アミノ酸が多く含まれるのは赤身なので、アミノ酸を多く摂りたいときはもも肉やサーロインなど赤身の多い部位がおすすめです。
ダイエットに効果的なカルニチン
カルニチンは、必須アミノ酸由来の成分です。カルニチンには脂肪酸の燃焼を促進する効果があり、ダイエットや肥満の改善に効果的と考えられます。
肉類など動物性の食品に豊富なカルニチンですが、牛肉には豚肉・鶏肉よりも多くのカルニチンが含まれています。カルニチンは赤身肉に特に多く含まれるため、脂肪燃焼効果を期待するときは赤身の部位を選びましょう。
吸収効率に優れたヘム鉄で貧血予防
鉄は、赤血球のヘモグロビンに存在しているミネラルの一種です。鉄が不足すると赤血球が減少し、貧血を引き起こします。
鉄は、動物性食品に含まれるヘム鉄と植物性食品に含まれる非ヘム鉄があり、吸収効率がよいのはヘム鉄です。牛肉には人体に吸収されやすいヘム鉄が多く含まれており、貧血の予防・改善効果が期待できます。
ヘム鉄には、非ヘム鉄の吸収を助ける働きもあります。効率的に鉄を摂取するには、非ヘム鉄の豊富な野菜・海藻類とヘム鉄を含む牛肉を組み合わせて食べるのもおすすめです。
牛肉の部位で特に鉄が多く含まれているのは、もも肉やヒレなどの赤身肉です。
悪玉コレステロールを減少させるオレイン酸・ステアリン酸
牛の脂には、コレステロールを低下させる作用のあるオレイン酸・ステアリン酸などの脂肪酸が含まれています。
オレイン酸は、不飽和脂肪酸の一種で悪玉コレステロールを減少させる作用があり、飽和脂肪酸のステアリン酸にもコレステロールを降下させる作用が認められています。
オレイン酸やステアリン酸が豊富な牛肉を摂取することで、高コレステロールが影響する動脈硬化や高血圧の予防・改善効果が期待できます。
悪玉コレステロール減少に効果的な脂肪酸を多く含むのは、バラ・リブロースなど脂肪分が豊富な部位です。ただし、脂質の多い部位にはコレステロールも含まれているので、極端な食べ過ぎは逆効果となる可能性があります。
牛肉の食べ方
牛肉の栄養素を損なわない洗い方・調理方法・食べ方などを解説します。
脂質の摂取量を抑えるには薄切り肉がおすすめ
薄切り肉は、厚切り肉と比べて網焼きで加熱する際に肉汁が多く落ちやすいため、脂質やコレステロールの摂取量を抑えられます。
バラ(カルビ)やリブロースなど脂質の豊富な牛肉を網焼きで食べるときは、厚切り肉よりも薄切りにされたものを選ぶようにしましょう。
牛肉を柔らかくするまいたけやキウイフルーツ
繊維質が多く硬い牛肉を柔らかくするには、タンパク質分解酵素のプロテアーゼを含む食材が役立ちます。
プロテアーゼを特に多く含んでいるのは、まいたけやキウイフルーツです。まいたけやキウイフルーツをペースト状にしたもので牛肉を漬け込むと、硬い牛肉の筋繊維が壊れて食感が柔らかくなります。
そのほか、パイナップル・パパイヤなどの果物類にもプロテアーゼが含まれています。牛肉料理にビタミンCや食物繊維が豊富なフルーツを添えることで、食事全体の栄養バランスを整えられるメリットもあります。
牛肉の保存方法
牛肉の栄養素を損なわない保存方法を解説します。
冷蔵保存
気温の高い場所に牛肉を放置しておくと、旨味や栄養素が損なわれるうえ、雑菌が繁殖してしまいます。買ってきた牛肉は、速やかに冷蔵庫のチルド室に入れましょう。
冷蔵庫に牛肉を入れる際は、パックから取り出してドリップや水分をキッチンペーパーで拭き取り、ラップで包んでからビニール袋に入れておくと、新鮮な状態を長く保てます。
牛肉を冷蔵保存できる期間の目安は、ブロック肉で5日程度、薄切り肉で3日程度、ひき肉で1日程度です。
冷凍保存
牛肉は冷凍保存することもできます。牛肉を冷凍する場合、冷蔵保存と同じ手順で肉表面の水分をふき取り、ラップに包んで小分けしてから凍らせましょう。
牛肉を解凍する際は、低温の冷蔵庫で時間をかけて解凍するのがおすすめです。高温で一気に解凍するとドリップが多く出てしまい、旨味や栄養素がが流出してしまいます。